勝手に百人一首
「………夢じゃない」







レイモンドは小さく笑い、エレティナの髪に柔らかな口づけを落とした。







「夢なものか。


俺は、本当に、来てしまった………」







どこか困ったような情けない声音に、エレティナはくすりと笑い声を洩らした。







「ええ………来てしまったのね。


私、ずっとずっと、我慢していたのに。


でも………嬉しいわ」







ゆっくりと顔を上げたエレティナの瞳には、月明かりに煌めく涙の粒が浮かんでいた。





レイモンドは心を奪われたように、ほとんど無意識にその宝石に唇を落とした。






エレティナが瞼を閉じ、レイモンドの背中に手を回す。






「………エレティナ」






エレティナは目を開け、レイモンドを見上げる。






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