あなたの優しさが…

時間終了10分前。


「お客様。お時間10分前でございます」

少し肩を揺らしながら起こした。


客は無言のまま、起き上がりバスローブを脱いだ。


後ろから「失礼致します」と言い
ワイシャツを着させた。
ズボンを渡しネクタイを手に取る。

「少しかがんでいただけますか」

お願いすると不思議そうにかがんでくれた。

ネクタイを締め、スーツに袖を通して
出来上がり。


『……。』


「どうかされましたか?」


『ふっ…クリーニング屋だな』と笑った。

彼は財布から諭吉を取り出した。

『これ。』

これはチップか?
特に何もしてないのに?
さすがに、もらえないよ…


「お気持ちだけ…」
断るとフッと口角をあげ、私をみてる。

「本日、わたくしは何一つお客様の
お役に立つことができませんでしたので、頂くわけには参りません」


そう言うと客は柔らかい顔で
『なら、これで新しい衣装を…』

『また来る。その時に見せろ』


そう言い、ベットの上にお金を置いた。



「ありがとうございます…では、
お言葉に甘えて、新調して参ります」


客を入り口まで見送ると

『名前』
また言葉足らずな質問が来た。


私は可笑しくなり
「ふふふ。翼でございます。」


そう言うと、客は私の頭を
ぽんぽんと撫ぜて帰っていった。
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