あなたの一番大切な人(1)
 国王も後ろから気を失った彼女を見ていたが、ふと思い立ったように小さくほほえんだ。

 「こいつは、麻薬の売人だ。」

 いきなり発せられた言葉に皆の視線が釘付けになった。

 そんな状況に、にやりと不敵な笑みを浮かべながら、彼は続けた。

 「あの酒場で麻薬を売りさばいた張本人。しかも、この俺に剣を向けた国家反逆の罪もあるから、とりあえず牢獄にぶち込んどけ。」

 ミッドレーは眉をひそめたが、そのとなりで国王は楽しそうに手を振った。

 隊長は立ち止まり静かに国王を見つめた後、思い出したように口を開いた。

 「麻薬っつったら、あんたもポケットに持ってたな。」

 国王は自分の部下の言葉に耳を疑った。隊長は国王と同じように不敵な笑みを浮かべて、彼女を相方の憲兵に渡した。

 「おまえさんも、不法物所持の疑いでもちろん牢屋送りだ。」

 そういうや否や、国王の両手をひねりあげ、すぐに縛り上げた。

 「げっ!まてまて、誤解だ!」

 背後に感じる痛みに彼は暴れたが、隊長は淡々と言葉をつづけた。

 「ここは街中だ。街の揉め事はすべて俺が一任してるってこと、おわすれなく。」

 縛り上げたローブを力いっぱいひっぱり、隊長は国王と謎の女性を城に連れて帰った。
 そこで二人は別房ではあったが、一晩牢屋にほうりこまれたのであった。

 こうして、世界絶世の美女と歌われた悲劇のヒロイン、チェスカ・ミラージェはアウディ国にとらえられ、歴史にその名を残すことになるのだが、その最悪の始まりの一日はいとも簡単に訪れ、瞬く間に夜明けを迎えたのであった。
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