あなたの一番大切な人(1)
【3章】明け方ー城内
静かに降り積もった雪を誰かが踏む音が聞こえる。
たくさんの丸太を積み上げてできた簡素な木の家の中に私はいた。
部屋は物音ひとつない静けさに満ちていた。
暖炉の上にあるやかんが湯気を立て、そこで静かに手を当てていた。
帰ってきてくれる人は、この世でただ一人。今の自分の唯一の味方。
扉が重く響く音を立てて、一人の老人が入ってきた。
白髪交じりで、腰が少し曲がった老人は、コートについた雪を振り払いながら暖炉の前の私に微笑みかけた。
「もう起きてたのか。チェスカ。」
私はこっくり頷き、老人の足元に走り寄った。
そのまま手を伸ばし、あふれんばかりの愛情を注いでくれるその老人に、力いっぱい抱き着いた。
細くて骨が出ているその身体は、年齢にそぐわずゴツゴツして少し痛かったが、その温かさは何故か大きな安堵をもたらした。
私は自分でも気づかぬうちに涙していた。彼の帰宅を待ち望んでいたのだ。
その様子を察して、老人の大きな手が私の頭を優しくなでた。
「こわい夢でもみたのか?今、ヤギのミルクを入れてやるからな。」
ヤギのミルクという言葉に反応し、私は笑顔で顔を上げたが、その瞬間、世界がぐにゃりと渦を巻いた。
何かどす黒くねじれた空間に身体が飛ばされながら、光のない世界に降り立った。
視野を覆っていた暗い霧が徐々に晴れていくのを感じ、私はうっすらと目を開けた。
たくさんの丸太を積み上げてできた簡素な木の家の中に私はいた。
部屋は物音ひとつない静けさに満ちていた。
暖炉の上にあるやかんが湯気を立て、そこで静かに手を当てていた。
帰ってきてくれる人は、この世でただ一人。今の自分の唯一の味方。
扉が重く響く音を立てて、一人の老人が入ってきた。
白髪交じりで、腰が少し曲がった老人は、コートについた雪を振り払いながら暖炉の前の私に微笑みかけた。
「もう起きてたのか。チェスカ。」
私はこっくり頷き、老人の足元に走り寄った。
そのまま手を伸ばし、あふれんばかりの愛情を注いでくれるその老人に、力いっぱい抱き着いた。
細くて骨が出ているその身体は、年齢にそぐわずゴツゴツして少し痛かったが、その温かさは何故か大きな安堵をもたらした。
私は自分でも気づかぬうちに涙していた。彼の帰宅を待ち望んでいたのだ。
その様子を察して、老人の大きな手が私の頭を優しくなでた。
「こわい夢でもみたのか?今、ヤギのミルクを入れてやるからな。」
ヤギのミルクという言葉に反応し、私は笑顔で顔を上げたが、その瞬間、世界がぐにゃりと渦を巻いた。
何かどす黒くねじれた空間に身体が飛ばされながら、光のない世界に降り立った。
視野を覆っていた暗い霧が徐々に晴れていくのを感じ、私はうっすらと目を開けた。