短編集『秋が降る』
「すぐにわかるさ」
もう男は興味をなくしたように、あくびをして窓の外に顔を向けた。

「まさか・・・誘拐?」

「・・・ッ」
男の口元だけがゆがむ。
笑っているのだろう。

車はどんどん町から離れてゆく。

住宅地を抜けると、家もまばらになってゆく。

___逃げろ、逃げろ!

頭の中で誰かが指令を出している。

わかっている。

逃げなきゃ、逃げなきゃ。

車のドアを開けて飛び出せば、逃げられるかも。
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