短編集『秋が降る』
そう思うが、あごの震えはいまや全身にひろがっている。

・・・次の信号で停まったら。

心でそう決めて、機会をうかがう。
外に飛び出たら、大声で叫びながら走るのだ。
きっと、誰かが助けてくれる。

そして、すぐにそのチャンスはやって来た。

前方の信号が赤に変わり、スピードを落としてゆく車。

隣の男を横目で見る。
まだ、眠そうな顔で外を見ている。

___いける。

停まるか停まらないかのスピードになった瞬間、

___今だ!

左手をレバーにかけ、外に勢いよく出ようとした。
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