短編集『秋が降る』
すぐにスピードをあげて車は走る。
流れる景色。

「意外に余裕だったな」
隣の男がニヤッと笑って言った。

私にではない。

運転席の男が、
「余裕でしたね」
と答える。

「しばらくかかるけど、我慢してくださいね」
男が今度は私を見て言う。

言葉とは裏腹に、横柄な言い方だった。

「ど、どこへ連れていくんですか!?」

ガチガチとあごが鳴る。
家を出て数分で、車に連れ去られるなんて。
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