短編集『秋が降る』
「私にお見合いさせて、お父さんとふたりっきりになりたいんでしょう?あいにくだけど、私、そんなつもり全然ないから」
そう言って、再び走るように道路へ。

振り向くと、女は追ってきていない。
さっきと同じ表情のまま、私を見ているだけだった。

___なによ。

あんな女にお父さんもだまされちゃって!

曲がり角を曲がると、なにかを振り切るように大股で歩く。

秋空も、季節外れなセミの声も、全部がイヤに思える。

キッ

車のブレーキ音。

見ると、白い車が私の横で停車したところだった。
すぐにふたりの男が車から降りてきた。

薄青の制服のようなものを着ている。

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