短編集『秋が降る』
___なんだろう?

なぜか、足がすくんだ。

男のうちのひとりが私を見て微笑む。
「飯野ハルさん?」

なんで、この人・・・私の名前を知っているの?

頭で警告音が鳴り響く前に、私はうなずいていた。

「飯野ハルさんですね?」

その笑顔は心からのそれではなかった。
笑顔の奥で、その男は緊張していた。

それに気づくやいなや、私は逃げようと体の向きを変えた。

「あ、逃げるぞ」
もうひとりが短く言うと、すぐに私の腕は強い力で押さえられていた。

「なっ・・・」
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