短編集『秋が降る』
「さ、車に乗って」
有無を言わさない強い口調で、男が言う。

恐怖のあまり悲鳴すら出せない。

周りを見回すが、誰もいない。

「あ・・・」

「ほら!」

男が車の後部座席に無理やり押し込む。

「や、やめてください!」
やっと声が出たときには外からドアが閉められた後だった。

「おい、車出していいぞ」
隣に座った男が運転席に声をかけると、すぐにエンジンをふかす音がして動き出す。

額に汗がにじむ。

突然の出来事すぎて、思考回路が追いついていかない。
< 8 / 156 >

この作品をシェア

pagetop