短編集『秋が降る』
「先生、お願いがあります」
声が震える。

「なんですか?」
少し首をかしげた杉浦先生が私を見た。

その目をしばらく見つめた後、私は口を開いた。

「お願いします、楽に殺してください。苦しまないように、殺してください・・・」

「飯野さん?」

「脱走しようとしたら殺される、って聞きました。苦しんで死ぬのはイヤです。だから、眠るように死ねるお薬をください」


沈黙。


杉浦先生は、
「ええと・・・」
と、なにか資料を見ながら頭をかいた。
「飯野さん、まだ混乱をされているようですね」

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