短編集『秋が降る』
「僕の横にいる人は、僕の妻。新しいお母さんなんかじゃないんだよ」

「・・・」
隣の女を見ると、悲しい表情でうなずいている。

「・・・お父さん?」

「おふくろ、思い出してくれよ。お見合いとか、新しいお母さんとか…それは大昔の話だろ? 今はおふくろの両親はこの世にはいないじゃないか」

この人は何を言っているの?

私がこんな大きな男性の母親であるわけが・・・。

唖然とする私に杉浦先生がやさしく言う。

「飯野さん、よく聞いてください。あなたは…認知症なんです。あなたはご自分のことを高校生だと思っておられるようだが、実際は80歳なんですよ?」
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