スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~
そして赤ペンが走る音が無くなり、荒木さんは黒のボールペンに持ち替えて何かを書き、2つの紙束を整理して立ち上がって、それを私に差し出した。

「終わった」
「ありがとうございます」

紙束を受け取り、何を書かれているか気になって読もうとする。

「時間が遅いし、会議室に戻っていいよ」
「あ、はい。読んで頂いてありがとうございます。水瀬編集長、お先に失礼します」
「うん、お疲れ様」

受け取ったその場で直しを読もうと思ったけど、1度ノートパソコンと紙束を持って編集部を出て、廊下を歩いて階段に差し掛かろうとした時、やっぱりなんて書いてあるか気になり、立ち止まって1つ目の紙束から捲った。

1行目から句読点の位置や漢字の置き換え、送り仮名のつけ方や、段落を別にするならこっちからなど、あの時間でこんなにも細かくチェックをしていて、私の前はきっと先輩達の原稿を読んでいたと思うし、荒木さんの仕事量って凄い。

1つ目の紙束は真っ赤で、2つ目も同じように赤ペンの箇所が多い…、佐藤さんに励ましを貰おうかな。

2つ目の紙束の最後のページは余白が多いけど、そこには『この2つの紙束の内容から、新しく3つはアイディアが生まれると思うから、宿題3つ追加で』とあり、つ、追加…高坂専務と佐藤さんが言うように荒木さんの宿題って厳しい。

小さく溜め息をつきながら、今度は黒いボールペンで書かれている文章に目を向けて読んだら、思わずその場でしゃがむ。

「この書き方、狡い」

ノートパソコンと紙束をギュッと抱きしめ、書かれている文章を心に刻む。

そこに書いてあったのは…

“宿題の抜き打ち、お疲れ様。
宝条さんが届けたい言葉、書けている。
後30分したら藍山駅のタクシー乗り場で待ってて欲しい。
一緒に帰ろう”

と、特に“一緒に帰ろう”の部分には四角の枠で囲ってある。

私が届けたい言葉、前にシェアハウスのリビングで荒木さんに言われた言葉と同じで、こんなにも真っ赤になった文でも届けたい言葉が少しでも伝わったのなら嬉しいな。

立ち上がって鼻を何度も啜り、ほんの少し潤んだ目を擦って階段を上がっていき、待ち合わせの時間までもう一度真っ赤な原稿を書き直そうと、3階について廊下を歩いて会議室に入っていった。
< 124 / 230 >

この作品をシェア

pagetop