スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~
side荒木仁

照れ隠しでムスッとする宝条さんに口元が緩みそうなのを堪えていると、ふと視線を感じたので顔を見上げて周囲を見たらカフェエリアの入り口付近で亮二がじぃっと俺を見ていて、俺は宝条さんに気づかれないように無言で左手でシッシッと追い払いような仕草をすると、亮二は呆れた様な溜息を吐いて入り口から遠ざかった。

亮二が何処まで見ていたかは定かではないけど、これ以上宝条さんのことを傷付けてくるなら、許せないな。

今日は田所の代打でサッカーチームの練習風景を撮影しに来て、田所が欲しがっているアングルをカメラのファインダー越しで探し出してボタンを押し続け、そういえばまだ宝条さんって現場に来たことが無いし、今日は試合ではないから撮影や現場の雰囲気のハードルが高くはないから呼んでみたが、まさか亮二と接触するとは思わなかったな。

一眼カメラのレンズの調整をするためにファインダーから顔を離していじって、もう一度ファインダー越しで調整のためにスタンド席に向けていたら宝条さんが競技場内のスタンドに出てきたのを見つけ、そして亮二が宝条さんの背後に近づいていくのが見えた。

ドクンー…、まただ、タクシーの帰りやシェアハウスのリビングで感じたあの胸騒ぎみたいな感情が胸に広がり、撮影ブースから急いで出てカメラを片手に一段飛ばしで駆け上がって通路に差し掛かったけど、亮二が宝条さんの横を通り過ぎたら宝条さんはその場に座り込むのが視界に入り、俺は歯をギリッと食いしばりながら大股で早歩きで宝条さんの元に向かう。

息切れをしながら宝条さんの側に行くと亮二から『カメラや編集の世界は甘くねぇぞ』と言われ、顔色もそんなに良くないので一旦このカフェエリアで休ませて俺は撮影を続行し、改めてカフェエリアの入り口に入って宝条さんを探すと、本人は黙々とノート書きをしていた。

心境の変化があったのだろうか、その後ろ姿はシェアハウスのリビングで1番初めの企画書作りで見せた時とは違う姿勢に見え、上司として小さな一歩を見れて素直に嬉しい。

確かに亮二の『カメラや編集の世界は甘くねぇぞ』は俺も理解が出来るし、痛感する場面もあるが、心を傷付けることに使って欲しくないし、宝条さんの編集者としての世界を自分で切り開いて欲しいし、それを俺がずっと傍で、となー…

「終わりました」

宝条さんの言葉にハッとして顔を上げると本人はゆっくりとホットミルクを飲んでいて、顔色も良くなってきてるな。

俺も原稿の確認を急いで仕上げて整理して残りは四つ葉かシェアハウスに戻ったときにしようとバックにしまい、カップを手にして残りのホットミルクを飲む。

「この後、A班の2人がサマーリーグの撮影に来るから、宝条さんはその後ろで見学」
「良いんですか?私ってまだ撮影やカメラについて何も分からないのに、そこにいていいんですか?」

きっと亮二の言葉を引きずっているんだな、顔が強張っているので、くそ…と心の中で亮二に悪態をつく。

「いていい。あの“男”の言葉より、俺の言葉だけを信じて」
「はい…、ありがとうございます」

“俺の言葉だけを信じて”って強く思えたのは宝条さんが初めてで、亮二には絶対にこの2人だけの少し甘い空間に入って欲しくない。

そして編集という世界について俺から大事な想いを伝えたくて、宝条さんに口を開く。
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