スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~
石井選手やキャプテンが着ているユニフォームとは違う色のユニフォームを着た選手がゴールの所に立って、私たちはゴール裏から様子を見ることにした。

「あのゴールキーパーの選手は7月の国際親善試合に出場する、日本代表の選手だよ」
「日本代表…」
「石井選手も選ばれてるけど、選抜方法は国内のチームからで、ゴールキーパーは選ばれる人数が他のポジションよりも少ないから、それに入れるってことは凄いよ」

水野先輩がとても尊敬の眼差しをゴールキーパーに向けていて、私は水野先輩の話をこぼさないように一生懸命にメモを取る。やっぱスポーツ初心者だと知識が全然無くて、本を買って勉強せねば。

『カメラや編集の世界は甘くねぇぞ』

まただ…、荒木さんが打ち消すくらい熱い想いを伝えてくれたのに、“口の悪い男性”の言葉がべっとりと頭に残っていて、瞼をギュッと閉じて両手で頬を叩いてモヤモヤを消す。

ゴールキーパーが両腕を大きく広げ、対する石井選手はボールの位置を確かめ、何度も間合いを図っていて、こっちまで緊張してきて、石井選手がボールを蹴った瞬間、ゴールキーパーはそれを読んでいたかのように右側へ低く飛んでボールの進みを阻止した。

「あ〜、くそっ!!もう一度お願いします!」
「どんとこい」

悔しそうにする石井選手と余裕な態度でボールを戻して構えるゴールキーパーのやり取りが良くて、ノートには自分が感じたことを書いたり、気になったプレーのことをメモを取り、水野先輩もどんどんペンを走らせている。

もう一度、写真を撮ってみたいな…、荒木さんは私たちから離れた場所で一眼カメラのレンズを拭いていて、私はとことこと歩いて荒木さんに近づくと、荒木さんは顔を上げた。

「もう一度、カメラを貸していただいても良いでしょうか?」
「良いよ」
「ありがとうございます」

荒木さんはレンズを拭いてた手を止め、バックからシルバーのデジカメを取り出して、そこに付いているレンズを別な物に付け替えて、私に差し出したので受け取って、もう一度ゴール裏の場所に戻り、デジカメの電源を入れて撮りたい姿勢に入る。

ファインダーを覗くと、ゴールキーパーの両腕が撮影の枠を越えそうでこんなにも長いのって凄いな、う〜ん、撮影範囲をどうやって変えればいいか、ボタンを触ってみても大丈夫かな?と顔をカメラから離して、ボタンを触れようとしたらふと大きな影が出来て、同時に煙草の香りがし、ドクンー…と心に重みがしてゆっくりと後ろを振り向く。

「ひよっこがいっちょ前に撮影か?」

相変わらず口が悪い…と私は“口の悪い男性”をキッと睨む。

「あ、“三輪”さん、どうもです」
「えっ」

水野先輩、今この“口の悪い男性”を“三輪”さんって言った?!と水野さんと“口の悪い男性”を交互に見る。

「表紙の件で撮影に来た」
「ありがとうございます。中畑さんが三輪さんの表紙を凄く楽しみにしていますし、俺もです」
「そりゃどーも」

棒読みで返すし、ほんとに“Scoperta”にあの素晴らしい写真を提供している人と同一人物なんだろうか、疑いの目で“口の悪い男性”を見る。

「その目、なんだよ」
「い、いえ…ちょっと水野先輩、良いですか?」

私は水野先輩の腕を掴んで“口の悪い男性”からかなりの距離を取る。

「あの男性ってほんとに“Scoperta”に写真を提供している、“三輪亮二”と言う人なんですか?」
「そうだよ。見た目も口もキツいけど、カメラの腕は秋山が凹むくらい凄いよ。荒木編集長とはいつもカメラの話とかスポーツの話で盛り上がってるみたいだし」

そ~っと“口の悪い男性”の方に顔を向けると、男性は背負っていたリュックを足元におろし、バックの中から取り出したのは漆黒の一眼カメラで、荒木さんが使うカメラとは全く違うのが見て分かる。

「俺、秋山の所に行くから、宝条さんは自分の撮りたい写真があったらどんどん撮りな」

水野先輩はそう言うと秋山先輩の所に向かい、私はとぼとぼとゴール裏へ戻り、“口の悪い男性”と離れた場所でカメラを構えた。
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