スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~

※“機嫌が悪い”理由side姫川

side姫川

何とか6月号の目処がたち、久しぶりに早めに四つ葉を出ようと、タウン情報部の一員である九条を定時で上がらせ、俺も四つ葉を午後6時30分に出た。

久しぶりに行きつけのBarに行き、鉄の扉を開けると客はあまりいなく、俺はカウンターの奥の席に座る。

「今晩わ。飲み物はいつもので良いですか?」
「ああ。食事系はまだいい」
「用意しますね」

マスターの三斗が手際よく細長いグラスに泡がいっぱいの飲み物を注ぎ、静かに俺に差し出し、俺は半分の量を一気に飲む。

「仕事終わりの一杯はうめぇな」
「今日は早く上がれたんですね」
「たまにはな。荒木は体調はどうなんだよ」
「うーん、倒れた時に家に行ったら『キツいけど、今は踏ん張らないと』って言ってた。もしかして四つ葉に来てないの?」
「最近会ったと言えるのは、部数会議の時だな」
「ほんとに“ツチノコ”だよね」

三斗は最初は敬語で会話をするも、荒木が絡むと“弟”としての口調になり、笑いながらグラスを拭き、ほんと荒木は入社してから会わねえのが通常運転で、でもいつの間にか原稿の完成や写真を撮ってるし、1度原稿を読ませて貰った時は圧倒的な言葉の表現に物凄く嫉妬した記憶があり、荒木が俺よりも先に編集長になった時は納得した。

編集長になってからも会議は出るが四つ葉に来るのはまちまちで、同じスポーツ部のやっかみや嫌がらせもあったのに、それに対してあいつは何も言わず、本を作ることに情熱と信念を曲げないで実力で黙らせていったし、前任の元編集長の高坂が専務になる時に『俺の後は仁しか務まらないし、反対するなら仁を引き抜いて別の会社を作るから、おっさんは黙ってろよ』って社長と口論していたのを思い出す。

鉄の扉が開いて入ってきた黒い服を着た男はあまり見かけない顔で、そいつはすたすたと奥の席に向かい、広めな机の上にリュックをドサッと置き、バックを開けてノートパソコンとカメラを取り出して机の上に置くと、手ぶらでカウンターに来た。

「今日もバイクだから炭酸と、つまみは野菜系で」
「用意しますね」

三斗が準備に取り掛かるとそいつはまた席に戻り、ノートパソコンとカメラをケーブルで繋いでいて、ここで仕事かよ。

「一服してくるから、戻ったら魚系のつまみを頼む」
「今日は美味しい材料が手に入ったから、楽しみにしてて」

三斗は料理をしながら返事をし、俺はカウンター席から立って鉄の扉を開けて外へ出た。

鉄の扉から距離を取り、ズボンの後ろポケットにしまっている煙草の箱を取り出して、1本を手にし、ライターで火を灯し、喫煙を嗜んでいると暗い細道から荒木がこっちに向かって歩いて来たのが分かり、鉄の扉の前で立ち止まって俺に顔を向ける。

「中に黒い服を着た男が来てない?」
「いたぞ。奥の席に座ってる」
「分かった」

荒木はそう言うと鉄の扉を開けて、大股でずかずかと中に入っていったが、何だ、あいつ、前髪で表情なんて分かんねぇのに、すげぇ機嫌が悪いな。
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