スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~
煙草を数十分かけて2本ほど吸い、明日は洋菓子店“フルール”の新作菓子の取材と撮影か。

新しく3本目の煙草に火を灯して吸い、九条の奴もタウン情報部に来て慣れてきたが、どうやったらあの文章になるんだよと白い煙を吐くと溜め息も吐きたくなる。

すると鉄の扉が開き、中から荒木が出てきて俺の側に来ると、右手で白シャツの胸ポケットから1枚のくしゃくしゃした紙切れを取り出して、俺に差し出した。

「“これ”、今すぐ燃やして」
「はぁ?」
「火を持ってるだろ?」
「持ってるが、何でだよ」

いきなり燃やしてって、しかも声が低いし機嫌が悪いし、何を考えてんだと荒木を見るが、本人は俺にくしゃくしゃの紙をずっと差し出してるから渋々受け取ると、誰かの名前が見え、これは名刺か?

くしゃくしゃとなった名刺をクルッと裏返して見ると、ある言葉が書かれていて、そりゃあ機嫌が悪くて“今すぐ燃やして”と言うわなとフッと笑った。

煙草を地面に落として靴で踏み消し、改めて名刺に火を点火し、地面に落として、2人でBarが入居しているビルの壁に背を預けながらその様子を見守る。

「姫川」
「何だよ」
「何も聞かないの?」
「聞いてもお前は素直に答える性格かよ」
「そうだな」
「“これ”は燃やしたが、最後はお前が“消せ”よ」
「言われなくても」

灯した火によってくしゃくしゃになった名刺が燃やされ、荒木は小さく息を吐くと寄りかかった壁から離れる。

「帰る」
「おい、荒木」

俺から離れて歩き出す荒木に、俺は後から声をかけると、荒木は振り返る。

「面倒なことに1ミリも巻き込まれたく無いが、飯ぐらいは付き合う」
「ありがと」

荒木はそう言うと顔を前に向けて歩き出し、俺は名刺の燃えかすを靴でグリッと潰して鉄の扉を開けて中に入り、自分の席に座る。

「つまみを頼む」
「すぐ用意するね」

三斗が手慣れた手つきでつまみを用意していると、黒い服を着た男が荷物を持ってカウンターに来た。

「会計を頼む」
「◯◯円です」
「これで」

男が代金を差し出すと、三斗は受け取る。

「あまり仁を怒らせないでね」
「向こうが勝手に怒ってるだけだ」
「次は外で喧嘩してくれると助かる」
「考えておく」

男は三斗からつり銭を受け取ると鉄の扉を開けて出て行き、三斗が大きな溜め息を吐く。

「荒木とあいつって喧嘩したのか?」
「殴りはしてないけど、仁が大股でずかずかと歩いて相手の所に行って一切酒を飲まないのが、かなり怒ってる証拠」
「成る程ね」

そういえば外に出て俺の所にきた時、酒の香りがしなかったし、きっとあいつが“名刺の持ち主”で、荒木が機嫌悪い理由か。

「何が原因か分からないけど、お店でやって欲しくないかな」
「ほっといて平気だろ」
「そうかな?」

三斗の言葉に、俺は外でのことを思い返す。

『最後はお前が“消せ”よ』
『言われなくても』

三斗からつまみを受け取り、食べながら燃やす直前に見たくしゃくしゃになった名刺の裏面を思い出す。

『仁じゃなくて俺を選べよ』

四つ葉に来ない間に荒木にどういった心境の変化があったか定かじゃないが、そっと見守るしかねぇかと思い、酒を一気飲みした。
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