スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~
荒木さんと三輪さんと一緒にてくてくと歩いて、地下に通じる階段を降りて更に廊下を歩いて奥まった場所にたどり着き、荒木さんがドアをノックするとキィっと音がしてドアが開き、私のお父さんよりもかなり年上な男性がいて、荒木さんにニコッと微笑んだ。

「いらっしゃい」
「本日もお時間を頂いて、ありがとうございます。後ろにいるのは新人の宝条で、今日は見学をさせて頂きます」
「はじめまして、スポーツ部の宝条真琴です。本日はよろしくお願いします」

私は荒木さんに紹介され、鷲尾さんに名刺を渡した。

「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。それではこちらに」

中に入ると、これでもかという位のバットとグローブの数が部屋の中にあり、鷲尾さんは部屋の奥にある椅子に腰掛け、荒木さんはそばにある折り畳みの椅子を2つ持って、私に1つ差し出した。

「宝条さんはこの位置で座って、亮二はカメラの準備が出来たらグローブからお願い」
「おう」
「では鷲尾さん、今日もお願いします」
「ええ、良いですよ」

私は荒木さんの後方に座り、バックからノートとペンを取り出し、三輪さんはバックから漆黒の一眼カメラを取り出してファインダーを覗いて撮影をボタンを押した。

荒木さんもバックからノートと鉛筆を取り出すて、鷲尾さんと向き合う。

「この間、会社の者たちと一緒に野球の試合を観戦しました。その際、打席に立った選手が使用しているバットがー…」
「そのバットは選手からのリクエストがありー…」

荒木さんは“社会見学”の話から初めて、徐々に鷲尾さんの話を上手く引き出していて、水野先輩とは違う話の持っていき方だ。

「本日はグローブでー…」

しまった、荒木さんの心地よい声で話を聞いてばかりで、ノートを取ってないし、聞き逃がしちゃ駄目だから、急いでノートを書き出す。

「今私がメンテナンスをしているのは、牧原投手が入団した時から使用しているグローブです」
「確かご両親が牧原投手へと、本人が入団する時に贈られたグローブですよね?」
「よくご存知ですね。今日もですけど、グローブのメンテナンスを任せて頂いて幸せです」

鷲尾さんが大切にグローブを両手で持ち、私達に向けて見せてくれて、三輪さんはそのアングルを逃すまいと中腰になって一眼カメラに収める。

「グローブの色も味が出ていて良いですね。この間の試合では牧原投手に打者が打ったボールが顔に向かって飛んできましたが、寸前でグローブでキャッチされてましたね」
「そうなんですよ!この部屋で試合の様子を見てましたが、試合後に『鷲尾さんのお陰でグローブのクッションが良くて、キャッチしても痛く無かったです。』と、ありがとうございますと言われ、用具係として携わって良かったと思えました」
「そのエピソード、この企画に書いても宜しいでしょうか?」
「ええ、是非。牧原投手も喜ぶと思います」
「ありがとうございます。グローブをメンテナンスする時にー…」
「それはこの液体と、布巾もグローブの革を傷つけないような素材でー…」

鷲尾さんが照れながらその時の様子を話をしていて、荒木さんの話題の引き出し方が上手で、どんどん話が進んでいく。

これが荒木さんの取材の方法で、なんて贅沢な時間なんだろうか。田所副編集長や佐藤さんが荒木さんのインタビューの録音を聞いて凹んだっていうのが分かるし、心地よい声で相手と話すのって簡単なことじゃない。

鷲尾さんの表情も相手に心を開いているのが分かる表情だし、三輪さんも会話を邪魔しないように撮影をしている。

要所要所をメモを取るけど、ずっと荒木さんのインタビューを聞き続けていたいし、でも話をメモにしなきゃと矛盾を繰り返しながらペンを進めた。
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