スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~
「もう時間か、あっという間ですね」

必死に2人の会話を聞いてペンを走らせていたら、鷲尾さんの言葉にパッと顔を上げる。

「俺も同じです。もし鷲尾さんと球団の方が了承して下さるなら、今シーズンの終了までお話を聞きに伺いたいです」
「………」

荒木さんの言葉を聞いた鷲尾さんは黙って荒木さんをじっと見つめるので、背後にいる私も姿勢を正して答えを待つ。

「私はこの仕事に携わったのが丁度宝条さんと同じ年齢でね」
「私と同じなんですか?」
「ええ。実はこの球団の捕手の選手として高卒からいたんです」

それから鷲尾さんが私にこの仕事に携わることをゆっくりと話してくれた。

「ー…という流れで選手から用具係として沢山の選手の道具のメンテナンスをさせて貰うことになりました。報道陣は球団の職員や選手に目を行くのは分かってるんで、こうした影の部分は陽が当たらないと思っていたんです。ですが…」

私はペンを動かすのを止めて、鷲尾さんをじっと見つめる。

「ですがある日、荒木さんからお便りをいただいてね。最初は他の報道陣のように話題がないからこっちに目を向けたと思いましたが、その熱意が凄かった。この人なら私の仕事を読者に届けてくれると思う位の文章に惹かれ、お返事に時間を頂きましたが取材を受けることにしました」

鷲尾さんが荒木さんからの取材の申し出を受けた経緯を話す。

「実際お会いして話をきちんと聞いてくれる素晴らしい人で、インタビューの人が荒木さんで良かったと思います」
「俺には勿体ないお言葉ですが、とても嬉しいです」

私は荒木さんの背中越しで見ているから荒木さんの表情は分からないけれど、絶対口元は笑っているに違いないと確信が持てるくらい荒木さんの声は嬉しさを含んでいる。

「今シーズンの終了まで聞きに来てください」
「ありがとうございます」

鷲尾さんが右手を差し出すと荒木さんも右手を差し出し、あぁ…この場にいれて本当に良かったし、こんなにも素晴らしい取材を目の前で見れて、幸せで、胸がいっぱいになる。

するとドアがノックされ、開いて入ってきたのは鷲尾さんと年齢が近そうなスーツを着た男性だった。

「よぉ、インタビュー中ですまんな」
「何だよ、もう少しでそっちに行くから食堂で待ってろって」
「良いじゃん。お前の仕事が雑誌に載るって聞いたからさ、嬉しくて来たんだよ」

スーツ姿の男性はガハハと笑うけど、あれ?この人って…。

「球団の社長だ」

荒木さんがボソッと言い、私達は立って球団の社長に挨拶をすると、社長は荒木さんの側に来て肩をバンバン叩く。

「鷲尾の仕事、大切に聞いてくれてありがとう」
「ずっと聞きたくて、粘って手紙を出し続けて良かったです」
「俺と鷲尾は高卒で入った同期でさ、俺が現役の頃も鷲尾が時間をかけてメンテナンスをしてくれたから、引退まで活躍が出来たんだ」
「今度社長とのエピソードをたっぷり話をするさ」
「よせよ!でもお前がいてくれたから牧原が長く投げられるし、定年以降もいてくれよ」
「お前が社長で居てくれるなら」
「良いぞ」

社長と鷲尾さんがお互いニカッと歯を見せ合いながら微笑み、この場にいた私も微笑み、初めての取材見学は終わった。
< 199 / 225 >

この作品をシェア

pagetop