スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~
side荒木仁
四つ葉の階段を駆け上がっていった宝条さんを見届け、俺は小さく溜め息を吐くと姫川が右手を離す。
「で、何が原因で騒いでんだよ」
「………言わない」
俺はもう一度顔をプイッと左に向けたのは、原因を言えば確実に姫川が怒るのが分かるし。
「中学生かよ。とにかく新人のガキにムキになんな」
「分かってる。今日の取材の纏めをしたいし、経理課にたまっている伝票を出してくる」
「おう。俺は街歩きしてくる」
「気をつけて」
姫川と別れて四つ葉の中に入り、先に経理課のドアを開けて中に入ると経理課の連中が一斉に俺に顔を向け、特に女性社員達は俺のことで騒いでいて、部長であるおっさんは俺の顔を見るなり厳しい視線を投げかけるが、俺は周囲に無反応ですたすたと歩いて、いつも伝票を纏める人にバックから取り出した伝票の束を渡す。
「遅くなったけど、俺と取材班達の分。製作は中畑から出すように言ってある」
「ありがとうございます!これでスポーツ部の分をやり始めれます!!」
纏める人は早速伝票の束をほどいて確認し始め、俺も経理課から出て行き、階段を上がって3階の会議室に戻った。
会議室の人数は疎らで、宝条さんは机の上にノートを広げ、ノートパソコンに今日のことを早速打ち込んでいて、秋山も俺が返した原稿の直しを頑張って仕上げている。
皆もそれぞれすべき事に集中しているし、俺も6月号の自分の企画の原稿に着手し始めた。
今回の鷲尾さんの取材は実現するまで時間がかかったのは事実で、短い時間で様々なエピソードを聞かせてくれて嬉しかったし、今シーズン終了まで話を聞きに行けることが出来たのは感謝しきれないし、6月号以降のインタビューは年明けの1月号だな。
だとすると今回のページのラストの文章は1月号に繋がるように書いて終わらせるだろ?エピソードの文も全部掲載じゃなくて、これから先の取材で比較させたいから幾つかストックとして残さないと。
どんどん書きたい文章が増えていくので調整は難しいけど、やっぱ“好き”だな、編集の仕事が。
下書き用の原稿用紙を用意して鷲尾さんとインタビューに協力をしてもらった人たちの話が書いてあるノートを手元に、鉛筆を握り1行目の1マス目から文字を書き出す。
1枚、2枚と原稿用紙に鉛筆を走らせ、こっちの話しは1月号に書くとして、このエピソードは必要だからー…どんどん原稿用紙が増えていき、まずいな、書きたい量が予定しているページ数を超えそうで、シェアハウスに帰ってからもう一度ノートを読み返すか?
「荒木編集長、今日の取材を纏めてみたのでお時間がある時に確認をお願いします」
「分かった」
宝条さんから印刷された紙束を受け取り、鉛筆を置いて黙読する。
所々話が抜けているから、話を聞きながらノートにメモを取るのは難しいか…と紙束の4枚目を捲って黙読し続けてると、1番下の文章の次に書いてあるシャープペンの文字にやられたなと思った。
俺は黒のボールペンでさらっと返事を書いて、宝条さんを呼び寄せ、紙束を渡す。
「インタビューの内容だけど、話を聞きながらメモを取るのは難しいのなら、録音機器を買うことを検討してご覧。後は2枚目の所はカタカナ表記じゃなくて正式名称で書くといい。4枚目の“最後の1行”については、俺は良いと思う」
「はい」
宝条さんは紙束を受け取ると席に戻り、またノートパソコンの液晶画面をみるけど、少し口元が緩んでいた。
「俺は先に上がります。秋山は?」
「俺も帰る。すいません、お先に失礼します」
「お疲れ」
水野と秋山が帰宅し始めると、会議室にいるメンバーが徐々に帰り始め、宝条さんと中畑が最後に出ていったのを確認して俺は原稿用紙に顔を向ける。
この1枚を書いて、2階の編集部に行って保存用としてコピーをするか。