スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~
「っくしゅん」

私が小さくくしゃみをしたら荒木さんはそっと腕の力を解いて、黒のパーカーの裾で自身の目元を拭った。

「温かいご飯を食べようか?」
「それは明日の朝に回したいので、ホットミルクを飲みませんか?」
「そうしよう」

2人でキッチンに行き、スープが入っている小さい鍋にラップをして、荒木さんはコンロ下の引き戸から少し大きめの鍋を取り出してそこに冷蔵庫から取り出した牛乳1本丸ごと中身を入れて火をつける。

出来たホットミルクをマグカップに注いで2人でローテーブルの方に行き、荒木さんは大きいソファを背もたれにしてカーペットの上に座り、両足を大きく広げて指で“ここ”って空いているスペースを指した。

私はその空いているスペースにちょこんと座って、荒木さんは後ろから腕を伸ばしてローテーブルにマグカップを置いて、私をバックハグする。

後ろからなんて初めて抱きしめられたし、やっぱ荒木さんって背が大きいから、私はすっぽりと包まれるなと思いながらホットミルクを飲んだ。

マグカップから唇を離してふぅと息を吐くと、荒木さんは私の右肩に顔を乗せる。

「温まった?」
「はい、温かいです」
「俺さ、好きな人の前で初めて泣いた」

“初めて泣いた”よりも“好きな人”の言葉に心臓がドクンと鳴り、私は荒木さんの方に振り向かずにいる。

「高校や大学の時に言い寄られて試しに付き合っても泣くことはなかったし、四つ葉に入ってからも好意を寄せられても応えることは無かった」
「そうなんですか?」
「ああ。相手には申し訳ないけど気持ちが動くことはなくて、でも宝条さんは違った」

荒木さんの腕の力が増す。

「宝条さんと亮二が関わるようになって、初めて嫉妬の感情があったし、“傍にいたい”って思ったのも初めてだし、自分から“好きだ”と思えたのも宝条さんだけ」

私はマグカップをローテーブルに置いて、荒木さんの両腕に手を添える。

「私もです。こんなにも心が温かくなってドキドキして、初めて人を好きになりました」
「同じだ」
「そうですね。同じですよ」

私は体の向きを荒木さんに向けた。

「これからは恐い時はちゃんと伝えます」
「ああ。俺も気持ちを確かめる。今はどんな気持ち?」
「今は恐くなくて、温かいです」

正直な気持ちを伝えて微笑むと、荒木さんの口元が笑っていて、シェアハウスのリビングの空気が少し温かくなってきた。
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