スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~
◆取材見学2
5日後、午前中は四つ葉の会議室で佐藤さんの清書を黙々とキーボードで打ち込み、今は4枚目の原稿を手にしながら指を動かす。

午後は鷲尾さんの取材見学に行くから、移動を始めるまでギリギリ進め、荒木さんとは現地で会うことになって、本人は不在だ。

佐藤さんの原稿は、日本代表に選ばれた選手のインタビューで、次に出場予定の試合後は海外への挑戦となっているそうで、佐藤さん曰く『デビュー時から密着させてもらって、この6月号は編集者として勝負に出たくて、ずっと荒木編集長に相談に乗ってもらってたんだ』と言っていたから、沢山の読者に読んで欲しい。

英語表記の単語は綴りに気を付けて慎重にキーボードに触れ、荒木さんが赤ペンで訂正された個所も正しく入力する。

黙々とキーボードを進めると、お昼のチャイムが鳴り、あっという間だったな。私は四つ葉に戻ってから続きをやろうと、出来た範囲をプリンターから印刷の指示を出し、自分の席の上にノートパソコンの下に置いておいた。

「中畑さん、すいませんが取材見学に行ってきます」
「いってらっしゃい。気を付けてね」
「はい!行ってきます」

荷持を纏め会議室を出ると、専務室のドアが開いて秘書の橘さんが1冊の本を抱えながら出てきて、私に気づいてそばに来る。

「こんにちは」
「お疲れ様です。あの、荒木編集長って会議室にいますか?」
「今は会議室にはいないですけど、これから取材先で会う予定です」
「それでしたらお願いがあって、この本を荒木編集長に渡していただいても良いですか?」

橘さんは1冊の本を私に差し出し、それはあまり自分では読まないジャンルの装丁で、でも何で橘さんが荒木さんに本を?

「この本を荒木編集長に渡すんですか?」
「はい。実は先日の休日、偶然本屋さんで荒木編集長に会って、私が読みたい本を取ろうとしたら荒木編集長と手が重なって」

少し頬を赤らめる橘さんに、自分の心臓がドクンー…と鳴り、え?休日に荒木さんと会った?そんな話しは荒木さんはひと言も私にはしていないから、胸がチクッというよりもグサッが正しい。

「荒木編集長が黙って私にこの本を差し出して、荒木編集長はそのまま何処かに行っちゃて。もし買おうと諦めていたのでしたら申し訳なくて、良かったら読みませんかって相談したかったんです」
「そう…なんですね」
「普段どんな時間に会議室にいるか分からないので、スポーツ部の宝条さんに会えて良かったです。お願いします」
「分かりました」

橘さんが曇りのない純粋な表情で差し出すから、断れなくて本を受け取ると、橘さんは嬉しそうに微笑んで専務室に戻っていった。

「駅に行かなくちゃ…」

何とかして藍山駅迄歩いて行き、電車に乗って荒木さんが待つ野球施設の最寄り駅に向かった。
< 230 / 289 >

この作品をシェア

pagetop