スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~
「ー…以上が球団と選手に伝えたい言葉です」
「ありがとうございます。鷲尾さんの言葉、しっかりと届けますので6月号の仮印刷が出来ましたら内容に間違いがないか、伺いに来ます。本日は貴重なお話を聞かせて下さり、本当にありがとうございます」
「こちらこそ。家族にも読ませたいので楽しみにしています」
「是非ご家族の皆様にも読んで頂けたら嬉しいです」

3人で改めて鷲尾さんに挨拶をして、部屋を出る。

「この後亮二と俺で選手達の練習風景の撮影して終わりで、宝条さんはスタンド席の見学エリアで待機」
「はい」

荒木さんと三輪さんの後に続いて歩き、私は見学エリアに、荒木さん達は撮影エリアに行き、2人は一眼カメラを出して撮影モードに入る。

私も折角来ているのだろうから何か習得したいし、選手の動きを見て、気になった動きや鷲尾さんがメンテナンスを手掛けたグローブを使っている牧原投手の練習風景を見て、1球1球投げる度に捕手がボールをキャッチする音が大きいな。

やっぱりルールが用語を知ったら言葉の幅が開くし、本屋さんでルールブックを買いたい。

そう言えばバックにしまっている橘さんから受け取った本、いつ渡そう…。バックから本を取り出して、装丁を手でなでると恋愛小説の本とは違って感触が違うし、荒木さんってこう言う本が好きなんだ。

私って荒木さんのこと、何も知らないな。

シェアハウスにいる時と四つ葉にいる荒木さんは全く違う雰囲気だし、どちらも魅力があっていいけれど、プライベートな所って人参が苦手や車の運転をする時は眼鏡を掛けるしか知らないような。

私の知らない1面を知っている橘さんが羨ましいというか、荒木さんから自分のことを話さない寂しさがあって、下唇をまたギュッと噛む。

またボールがキャッチされる音が聞こえ、いけないいけない、今は大切な取材の時間でしょ?本をバックに入れて、両手でバンバン頬を叩き、しっかりしろ!宝条真琴!!ひよっこじゃないし、1人前の編集者になりたいし、“休刊”を阻止したいんでしょ?

本はシェアハウスに帰った時に渡すとして、今は1秒でも目の前のことを逃さないように、“自分の目”でこの景色を焼き付けよう!

大きく深呼吸をして気持ちを切り替えて、ノートとペンを手にして牧原投手の練習をメモしたり、外野付近でボールを遠くに投げて練習をしている選手を見て、後で荒木さんに聞きたいことをどんどんノートに書き続けた。

やがて荒木さんだけが私の所に来て隣の空席に座り、シルバーのデジカメを私に差し出す。

「今から5分、この席から“自分の目”で撮ってご覧」
「ありがとうございます!」

私は満面の笑みでシルバーのデジカメを受け取ると荒木さんはフッと笑い、座席の背もたれに体を預け、私はファインダーを覗きながら“自分の目”で撮りたいアングルを模索する。

丁度牧原投手が投球の構えをしたので、撮影の枠に牧原投手が収まるようにして、どんどんボタンを押し、次は捕手でしょ?その次は外野付近の選手でしょ?と次々とボタンを押していった。

「時間」

荒木さんの声にハッとしてファインダーから顔を離してふぅと息を吐いて、荒木さんにシルバーのデジカメを渡す。

荒木さんはデジカメのボタンを押してレンズの目盛りをいじり、ファインダーを覗いてボタンを押して顔を離し、液晶画面を私に見せたので覗くと、全然ブレもなく、この席から牧原投手を撮った筈なのに顔の表情もばっちり。

「“これ”を撮れるよう、期待してる」
「………はい!」

“期待してる”って初めて言われて嬉しくて、デジカメをギュッと抱きしめた。

「お昼をここで食べて、四つ葉に一緒に帰ろう」
「はい!今日は炒飯にします」
「俺はパスタ」

四つ葉まで一緒に帰れることが嬉しくて、はにかみながら荒木さんと食堂に向かった。
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