スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~
◇佐藤さんのこと
朝9時、会議室に佐藤さんを除く先輩達と荒木さん、高坂専務が座り、私もドアの近くの末席に座る。

「佐藤は自宅で待機して貰ってる。先ずは俺から話すね」

高坂専務が佐藤さんがいない理由を述べ、小さく息を吐く。

「選手のことから言う。グレーだけど黒に近いし、場合によってはユニフォームを脱ぐね」

ユニフォームを脱ぐ?それってどういうことだろう。

「選手としてあのバレーボールのコートに入ることはない。引退、もしくは永久追放ってこと」

荒木さんが冷静に話し、そんな、永久追放って…、じゃあ佐藤さんがあんなに時間をかけて書いた記事は…。

「佐藤にはきついけど、今回の原稿は別のでいったほうがいい」
「まだ4日あるし、3日は様子を見させて言ったけど」
「疑惑が晴れたとしても、1度着いたイメージを回復させるには3日では出来ないし、確実に雑誌に載る事を優先させろ」
「俺は佐藤の原稿でいきたいから、譲りたくない」

荒木さんと高坂専務の間にピリッとした空気が流れ、高坂専務は深く溜め息を吐いて腕を組む。

「仁が佐藤でいきたいのは分かるが、現実を見ろ」
「見てる」
「意地になってる場合じゃない。田所と水野のストックのどちらかだ」
「待って下さい、俺は佐藤さんの代わりで掲載されるなんて1ミリも嬉しくないです」

水野先輩が高坂専務の言葉に反対し、表情も険しい。

「俺もです。佐藤はこの6月号について1番頑張って取材を重ね、B班の事もフォローしていたし、こんなことで代わりに載っても嬉しくないですよ」
「2人の意見は分かる。ただ経営側からみたら疑惑のまま載せた記事って読みたいと思う?しかも今回はサマーリーグの事前情報を載せて、7月号に繋げるようにしてんだろ?仁が折角勝ち取った部数を忘れた?」
「それは…忘れてはないです」

田所副編集長が高坂専務に気持ちを伝えるけど、当の高坂専務は2人の申し出に渋い顔をして、更に経営側としての気持ちを伝えたら、田所副編集長はギュッと下唇を噛む。

どうしよう、会議室の空気がとてもじゃないけど悪いというか、冷めきっていて、誰も口を開こうとしないし、私もこんな展開を予想していなかったから、どんな風にしていたらいいか分からない。

でも佐藤さんの原稿をずっと清書したり、この会議室で一緒に原稿を直したり、宿題の抜き打ちチェックの時に親身になってアドバイスや励ましをしてくれたから、心が痛い。

「宝条さんは佐藤の清書はどれくらい残ってる?」
「おい仁、待て」
「えっと、あと8枚で終わります」
「そのままー…」
「待てって言ってるだろ!」

荒木さんから清書の進捗を聞かれたので答えたら、高坂専務の言葉に荒木さんは反応せずに進めようとしたら、高坂専務は声を大にして発して、ふぅっと息を整える。

「お前、一旦廊下に出て頭を冷やせ」

普段荒木さんのことを下の名前で呼ぶのに、今は“お前”と呼び、表情がとても冷たい高坂専務に先輩達と私は引いてしまう。

「席を外す」

荒木さんはそう言うとすたすたと歩いて会議室を出ていき、高坂専務は椅子から立って、私達に背を向けて、顔を上に向けてふぅっと息を吐いて、クルッとまた私達の方に向いて椅子に座った。

「恐がらせてごめんね。理想ばかりって難しいし、現実も見てかなくちゃいけないんだ」
「荒木編集長は大丈夫でしょうか?」
「まぁ俺より長くスポーツ部を守ってくれてるし、本を作ることに人一倍情熱と信念を持っているから、佐藤のことを思ってるのかもな」

高坂専務が小さく笑うと会議室のドアがノックされ、九条さんが息切れしながら入ってきた。

「あれ?九条ちゃん、どうしたの?」
「はぁ…はぁ…、編集部で佐藤さんが…」

九条さんが息を整え、ゴクッと唾を飲んだけど表情がとても泣きそうになっている。

「佐藤さんが…、原稿を破いて荒木編集長に一通の手紙を渡して出ていきました…」
< 241 / 292 >

この作品をシェア

pagetop