スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~
そして青木印刷所に提出する日になり、いつものように白シャツを着て荷物の準備をしていると、ドアがノックされたので開けると宝条さんが着替えていてバックを持っていた。

「おはようございます」
「おはよう」
「朝ご飯、作りましょ?」
「ああ」

2人で廊下を歩いて1階に降りてリビングに入り、それぞれバックを置いてキッチンで朝食の準備をする。

俺が雑炊で宝条さんが卵焼きを作り始め、やっぱ宝条さんの手際が良くて、卵焼きはふんわりと仕上がってるな。

「頂きます」

2人で手を合わせて食事を食べ始め、宝条さんはどことなく元気がないように見え、きっと佐藤のことだろう。

「ごちそうさまでした」

2人で食器を洗い、バラバラでシェアハウスを出て四つ葉に行き、俺は専務室に行くと高坂さんだけがいた。

「バイク便が取りに来るまでだぞ」
「ああ」

高坂さんも佐藤が来るのを信じている言い方だし、俺も佐藤が来るまで自分が書いた原稿を封筒に入れずに会議室の机の上に置いて、仕事を始める。

水野から受け取った原稿を読むと、この内容を3日で仕上げてきた技量が凄く、水野がサッカーに対してこんなにも気持ちを込めているのが一文字一文字表れていて、なんて読み応えがあるのだろうか。

会議室の時計がタイムリミットに近付いてきて、高坂さんが水野と俺ので行くと進行を進めようとしたら会議室のドアが開いて、そこには佐藤の姿があった。

息を整えた佐藤が俺に原稿を差し出すと、俺は受け取って内容を黙読する。

佐藤が書いた原稿は今回疑惑の選手がいたチームのことではなく、日本代表のバレーボールチームについてのことで、代表に選ばれること、それまでの過程やその後の選手個人の立ち振舞や、監督から見た選手それぞれへのコメント、そのチームに携わるスタッフについてのことで、原稿に仕上げるには相当な取材の時間が必要で、きっと佐藤なりに他の仕事と並行にしながら進めていたのが想像できた。

俺は今回6月号に載せるなら自分じゃなく、佐藤と水野の原稿でいきたいと強く思い、高坂さんに2人でいきたいと強く言い、高坂さんも佐藤の原稿を読んで本人に『おかえり、待ってたよ』と言うのを見て、心からホッとする。

皆を先に帰らせて高坂さんと俺と佐藤で専務室に行くと、橘さんが仕事をしていた。

「橘には悪いけど、大事な話をするから上がって」
「はい」

橘さんは荷物を纏めて専務室を出て行き、高坂さんは自分の椅子にドカっと座り、俺と佐藤は高坂さんの正面に立つ。

「この度は本当にすいませんでした」
「本当だよね~」

佐藤が頭を深く下げると高坂さんはニコッと微笑むけど、直ぐ様表情が冷たくなる。

「ただな、原稿を破くのは許せない」

佐藤は頭を下げたまま、体がビクッとさせる。

「佐藤が自分の時間を削ってまで半年も前から準備をしていたのは知ってるよ」
「はい」
「悔しいよな」
「はい…」
「でもな、それに携わって協力をしてくれた人達の言葉を破くのは違うだろ」
「……い」

佐藤が泣いているのが、言葉の返事で分かる。

「顔を上げな」

高坂さんの言葉に、佐藤はゆっくりと顔を上げる。

「仁、あの手紙を持ってるだろ」
「持ってる」

俺は黒パンツのポケットから、【退職願】を取り出して佐藤に差し出す。

「佐藤が破くのは原稿じゃなくて、こっち」
「………」

佐藤は黙って【退職願】を受け取って、大粒の涙を流しながら思いっきりビリビリと破く。

「おかえり」
「…い、…はい…ありがとう、ございます」

俺は右手で佐藤の頭に手を置いて、髪をクシャっとする。

「4日休んだ分、宿題は10個の企画と、皆に誠心誠意謝って。高橋は留守を守っていたし、原稿を破いたのを拾って元に戻してくれた田所達と、あと2階の編集部の皆にも」
「おいおい、仁、復帰早々に言い過ぎだって」
「い、いえ、本当に沢山の人達にご迷惑おかけしましたので」
「特に田所達には感謝だよ。宝条さんなんて率先して編集部で拾っていたって、姫川が話してたから」

俺が佐藤を探している間の事を高坂さんが話し、俺も後で姫川に礼を伝えないと。

専務室を佐藤と2人で出て、佐藤はまた俺に体を向ける。

「待って頂いて、ありがとうございます」
「ああ」
「荒木編集長の原稿、明日読ませてくだい」
「良いよ。明日、会議室に来るのを待ってる」
「はい!」

佐藤は満面の笑みで返事をし、先に階段を降りていき、俺はスマホを取り出して宝条さんに姫川と夕飯を食べる旨をメッセージで送り、2階の編集部へ向かった。
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