スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~
ドアがノックされてドアが開かれ、入って来たのは大きな茶封筒を手にした高坂専務で、昼間にも来たのにどうしたんだろうか。

「夜に来てごめんね〜」

というか、キスをしている所を見られなくて本当に良かったし、荒木さんも素早くベットから降りてパイプ椅子に座って、いつものように平然としている。

「お、仁もお見舞いに来たんだ」
「これでも上司だし」
「きちんと宝条さんの事を連絡をよこしてくれてありがとな。宝条さんのご両親に会って、気持ちを頂いた」
「そう。で、用件は?」

どうしよう、荒木さんの前髪で表情は分からないけど、雰囲気というか、高坂専務に怒っているのが分かる。

「そうそう、6月号の仮印刷が出来た。急遽水野と佐藤の2つを入れたから、ボリューム的に大丈夫だろうと思うけど、目を通して欲しい。増えた分の価格も親父と経理のおっさんに説明を俺からしたから、ネチネチ言われないから安心しろ」
「ネチネチ言ってきても、またじゃんけんで負かせればいい」
「だよな。田所にも話したけど、次の部数会議は7月号の最終的な意思確認で、ま、仁が勝ち取った数字で行けるだろう」
「分かった。明日田所と部数会議の話しをする」
「次が勝負だし、踏ん張ろうな」
「ああ」

高坂専務は荒木さんに茶封筒を渡す。

「頑張っている宝条さんにも読ませな」
「ああ、ありがと」

高坂専務は私達にそれじゃあと手をひらひらさせてドアを出て行き、荒木さんはふぅと息を吐く。

「焦った」
「私も焦りました」

荒木さんが茶封筒を開封して、バサッと紙束を取り出すと、私がいるベットに腰掛けて顔を私に向ける。

「一緒に読む?」
「はい!」

やったぁ、嬉しい。私は荒木さんの右側に来て、荒木さんが1枚1枚捲って、2人で黙読したり、私が製作班の先輩達と手掛けた写真の話しをしたり、あ、これは水野先輩が3日で書くと言ったページだ。

「凄い…、水野先輩ってサッカーに対する知識もですが、こんなにも語彙力が豊富なんですね」
「水野は小学生の時からプロを目指し、そういった組織のチームに所属していたから、知識や技術は凄い。宝条さんも現場で水野の取材の仕方を見ているけど、会話に入る間合いも場の雰囲気を良くするのも、水野の組織にいた時代が参考になっている」

そうか、あんなに場の雰囲気が良くなるのも、水野先輩自身の経験から来ているものなんだ、素人の私とは圧倒的な経験の差があるな。

荒木さんがまたページを捲り、鷲尾さんのページになった。

本当にこの取材の現場に立ち会えた事が贅沢で幸せで、こうして雑誌に掲載される形になると嬉しいなと、心が温かくなる。

「鷲尾さんの言葉が素敵ですね」

元選手だった鷲尾さんが用具係りになった時の葛藤や、それをどう受け入れて用具のメンテナンスをする時の気持ち、選手達に用具を大事に扱って欲しい思い、そして選手や球団に対すること、そしてその逆で選手や球団の社長が鷲尾さんに対する感謝の気持ちが一文字一文字綴られていて、それを纏めあげた荒木さんの文章力が凄い。

どうしよう、なんか泣けてくるし、視界が滲んで鼻を啜り、寝間着の袖で目元を拭く。

「すいません、取材をした時を思い出したのもありますが、シェアハウスのリビングで荒木さんが一生懸命にノートに纏めたりしているのを知っているので、こうして雑誌に掲載されるのが嬉しくて」

すると荒木さんは仮印刷の紙束をベットの隅に置いて、大きな右手で私の顎をクイッと上に上げる。

「嬉しいって言ってくれて、ありがと」
「ん…」

荒木さんの顔が近付いて唇が重なり、またふかふかなベットに押し倒された。
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