スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~
side荒木仁

藍山駅から一駅分を歩いて真琴を見送り、線路沿いを歩くけど、真琴が言った言葉を思い返す。

『実家に帰らせて頂きます!』

高坂さんの奴…だからすっごくにこにこしていたのか、思いっきり溜め息を吐いて、四つ葉に戻り、3階の会議室に入ると、皆は7月号に向けてそれぞれが仕事を初めている。

真琴がいなくても7月号の締め切りは止まることは無くて、俺も思考回路を切り替えてバックからノートを取り出して球宴の内容を振り返った。

A班の野球側のメンバーに伝えるためにノートパソコンで纏め始め、印刷する部数は野球側の人数分と田所と…佐藤もA班の原稿を読んで“Scoperta”の掲載順やページ数を俺に相談してきているし、そろそろ取材班の組織体制を見直そうかな。

佐藤の分も含めて印刷をし、プリンターから次々と印刷された用紙が出てきて、枚数を確認し、自分の席で資料作りをしているとお昼のチャイムが鳴った。

「お昼だから、切りの良い所で食事をして」
「はい」

俺が声かけをすると皆もそれぞれ昼食を食べ始め、俺はコンビニでも行こうかと会議室を出る。

階段を降りて2階に差し掛かると姫川に会い、2人で並んで階段を降り始めた。

「橘さんは、今日付けで四つ葉を去った」
「俺的にはふ〜んって感じだな」
「巻き込んだお詫びに【もりや】で奢る」
「良いぞ」

2人で四つ葉を出て【もりや】に行くとカウンターの席に水瀬がいて、俺達もそこに座らせてもらい、水瀬、俺、姫川の順になる。

水瀬は魚定食を選んでいて、俺達もそれを選び、出てくるまでお茶を啜った。

「2人には巻き込んで悪かった」
「ううん、大きな怪我は無いけど精神的にきてたと思うし、ゆっくり実家で休めるならいいんじゃないかな」
「俺だったら1週間のうち4日は何もしねぇな」
「姫川だったらそうしそうだよね。俺だったら1週間…、2日分は寝て過ごすでしょ?後は身体がなまるから模様替えしたり、全然見れてない映画の映像を観まくるとか」

2人は1週間の休みをどうするかで盛り上がり、もし俺も1週間の休みがあったら真琴と出会う前だったら思う存分読書に費やすけど、今の俺だったら真琴とご飯作りを楽しんだり、野球のラジオ中継やテレビ中継を2人で聴きながら過ごしたいな。

「お待たせしました!姫川さんの弟さんから頂いだ、ブリの照り焼きです!」

3人分の食事が出され、俺達は早速頂くと、照り焼きのタレがくどくなくてご飯と一緒に食べてみるとより美味しさが倍増する。

姫川も水瀬も箸の動きが止まらないようで、俺も食べながら真琴がシェアハウスに帰ってきたら魚料理を挑戦してみようかな。

食べ終わり、新しくお茶を淹れてもらい啜る。

「宝条さんの様子はどう?」
「顔色は良かったし、駅まで見送った。その時にさ…」
「どうしたんだよ」
「四つ葉で高坂さんが宝条さんに耳打ちした事があって、駅で何言われたのって宝条さんに聞いたらさ」

俺はお茶を啜って、口を離す。

「『実家に帰らせて頂きます!』って、言われた」
「グフッ」
「ゴホ…」

姫川と水瀬が同時に口につけていた湯飲みからお茶をこぼしそうになり、2人は肩を震わせている。

「汚い」
「ゴホ…、いや…お前の言い方もだが、高坂の奴、おもしれえことを新人のガキに吹き込みやがって…クク…」
「ドラマに出てくる台詞を、良く高坂さんは知っているよね」
「くだらないって思った」

俺はまたお茶を啜り、湯飲みをコトンと置く。

「四つ葉に戻る」
「帰るか」
「俺も帰ったら副編の原稿のチェックだ」
「水瀬の分も出す。昨日のお詫び」
「いいって。それを目的にここにいたわけじゃないよ」
「俺の気が済まないし。すいません、3人分のお会計をお願いします」
「はい、こちらへ」

俺は店員さんと会計の場所に行き、水瀬はやれやれという表情でいた。

【もりや】を出て、3人で四つ葉に向けて歩く。

「ありがとね」
「別に」
「新人のガキは四つ葉を続けるのかよ?」

姫川の言葉に、昨日真琴がご両親に対して『絶対に四つ葉を辞めたく無い』という言葉を伝えたことを思い出し、続けて欲しいのは本当だ。

だがー…

「本人は続けるつもりだけど、ご両親が反対している」
「俺も宝条さんのご両親の気持ちは分かるし、ここは宝条さんがどう説得するかだよね」
「夕方に高坂さんと実家に行くけど、俺は見守るしかない」
「何かさ、女性の実家に行くのって緊張しない?俺なんて未だ恋人のご両親に会うの緊張するし、お酒なんて1杯だけしか喉が通らないよ」

水瀬が苦笑しながら自分のことを話すけど、真琴のお父さんは厳しそうな印象だし、この後の夕方に実家に行ったらきっと今回の事で相当厳しく言って来るだろうな。

そう思いながら四つ葉に戻り、仕事に励んだ。
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