スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~
side荒木仁

俺は藍山駅から次の駅へと伸びる線路沿いの脇道を亮二と歩くことになり、亮二は俺の右隣でバイクを押しながら歩く。

「宝条さんに電話をしただろ」
「いちいち許可を取る必要はねぇだろ」
「そうだけど、触れるからとかセクハラ」
「はっ、取材前に唇をテカらせている奴に言われてもな」

亮二は鼻で笑い、くそ…、ああ言えばこう言うパターンになりそうだ。

「ひよっこを泣かせんなよ」
「確かに泣かせたのは俺のせいだけど、亮二に1ミリも関係ない」
「ふ~ん、でも遠慮無しで行くのは諦めねぇけど」
「諦めの悪い男はカッコ悪い」
「女を泣かせる男の方がカッコわりぃ」

俺達の横を次々と電車が通過し、時折電車からの光で亮二の表情がニヤっとしているのが分かる。

「そのニヤっとするの、一生治らないと思う」
「治す必要は無いね。惚れている女をただ黙って見ているのは性に合わねぇし、前にも言ったが邪魔すんなよ」
「そっくりそのまま返す」
「商売道具のカメラを撮る手で殴んねぇが、次ひよっこを泣かしたら只じゃおかねぇし、俺の腕の中にひよっこを収めー…」

俺はピタッと歩みを止め、手に持っているバックを道路の地面にバンっと投げ、右手で亮二の胸倉を掴んだ。

「ここで殴る?」
「俺も原稿を書くペンを持つ右手で殴りはしない」
「へぇ、じゃあこの右手を離せよ」

俺は胸倉を掴んでいる右手をそっと離すと、亮二の喉をギリっと掴んだ。

「グッ…」
「悪いけど、亮二の腕の中に収められる事は一生訪れないし、殴っても亮二はへこたれずにまた来るだろうから殴り損になる」

俺は喉を掴んだ手をパッと離して、バックを拾い上げると、亮二は何回か咳こんで笑う。

「ゴホ…、ゲホッ…、俺の性格、よく分かってんじゃん」
「これでも付き合いが長いし」

また線路沿いを歩き出す。

「あ〜あ、殴られたらひよっこに慰めてもらおうと思ったのに」
「もう一度、喉を掴むよ」
「お〜怖ぇ」

そろそろ駅に着きそうで、亮二の方に顔を向ける。

「話しをして疲れた。牛丼を食べたい」
「大盛り汁ダクで卵をつけてくれよ」
「卵くらい、自分でお金を出しなよ」
「ケチな男は嫌われるぞ」
「嫌われる程の内容では無いし、漬物だったら出してもいい」
「うわ~、ひよっこが聞いたら引かれるぞ」

亮二はバイクを牛丼のチェーン店の駐輪場に停めて、2人で中に入ると、亮二は券売機で牛丼、大盛り、漬物のボタンを押して小銭を入れ、券が出てくると、俺に左手を差し出す。

「漬物、100円」
「本気で請求をするんだ」

俺は財布を取り出して、券売機で牛丼、大盛り、味噌汁、卵を選んで札を入れて発券し、卵の券だけ亮二に渡した。

「俺はケチじゃない」
「素直じゃないな」

2人でカウンター席に座り、店員に券を渡し、数分で料理が運ばれ、亮二はバクバクと牛丼を食べていく。

「ゆっくり食べれば」
「母親かよ」
「亮二みたいな息子、絶対に嫌だ」
「俺も仁が息子だったらぶっ飛ばしてる」
「亮二は理不尽にぶたないだろ」

俺は味噌汁を啜り、静かにお椀を置く。

「さぁ?女を泣かす様な息子だったら、確実に左手をお見舞いしてるな」
「暴力反対。宝条さんを慰める役は亮二じゃなくて俺だから」
「愛想つかされて実家に帰ってんのに?」
「つかされてない」

俺は顔をぷいっと横に向けると、亮二は笑って漬物を食べる。

「今度の土曜、シンクロの見学にひよっこは来んのかよ」
「2時間だけ。高坂さんも来る」
「飛び込み台から落とす約束を実行してもいいか?」
「好きにすれば?仕事をサボりたいって言わなくなるだろうし」

俺は牛丼をバクッと食べる。

「ハハッ、あの専務も俺の邪魔をしたし、溺れないようにプールサイドから押す」
「『水に滴る良い男じゃん』って言うそうだけど」
「確実に言うな」

2人でその場面を想像し、はぁと溜め息を同時に吐いた。

亮二と牛丼のチェーン店の外で別れ、腕時計を確認したらスポーツのテレビ放送が終わっていて、スマホのメッセージを送ろうと画面をタップしたら、真琴のメッセージを読み、約束を果たせなくて申し訳無かった。

明日の金曜日に誠心誠意、謝ろう。
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