スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~
荒木さんが両手をギュッと握りしめて落ち込んでいる姿に心が切なくなって、下げられた頭からは荒木さんの表情が見えないから、今はどう思っているんだろうか、どうやって私は返事を……、そうだ。

私は小さい黒いソファから立ち上がって荒木さんの側に膝立ちをして、荒木さんの頭にかかっているタオルを両手で掴んでくしゃくしゃとする。

「就職活動は本当に大変でした」
「うん」
「やっと働いてみたい場所が見つかって、嬉しかったです」
「うん」

今朝のシェアハウスの洗面台でのやり取りを思い出し、これなら気持ちを伝えられそうで、荒木さんは抵抗することなく、この状況を受け入れている。

「休刊かもと言われた時、泣くのを我慢しました」
「………ごめん」
「でも、素晴らしい雑誌を読んでもらいたいし、荒木さんの言うようにきちんと向き合って、荒木さんの傍で書き上げたいです」

そう言い終えた瞬間、荒木さんが私の両腕をガシッとそれぞれ大きな手で掴み、顔を上げ、タオルの隙間から潤みを帯びた漆黒の瞳が私を捕えるんだけど、どうしよう、顔をあげた荒木さんの顔の距離が近くて、自分の顔が徐々に熱くなっていくのが分かるし、視線を外すことが出来ないよ。

…ぐぅ~…こんな時にお腹の音が鳴るなんて、最悪……、そうだ。

「ご飯、一緒に食べませんか?」
「いいけど」
「作るんで待っててください!」

荒木さんが静かに手を離し、私は立ち上がってキッチンに向かい、冷蔵庫からお買い得の卵のパックを取り出し、コンロにフライパンを置き、油をひいて火をつけ、ええい、今回は卵を3つ使っちゃえとボウルに割って菜箸で混ぜて、フライパンに入れて素早くかき混ぜて炒り玉子を作った。

味付けはもちろんコンロ下の引き戸からケチャップを取り出して炒り玉子にかけて火を止め、食器棚の引き出しからスプーンを2つ取り出し、荒木さんの方へ振り返ってスプーンをみせる。

「ケチャップをかけました!食べましょう?」
「……ありがとう」

荒木さんはタオルを首にかけ、ほんの少しだけ乾いている前髪をかきあげて立ち上がり、私の所にきてスプーンを受け取り、2人でフライパンの側にきて、荒木さんが一匙掬って食べ、私も続いて食べるけど、今回は焦げてないふわっとした炒り玉子で、ケチャップの味がとても美味しく感じる。
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