スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~
◆切なさと、哀しさとside荒木仁
side荒木仁

腕時計の時間を確認すると午後23時になっていて、シェアハウスの家の前に立ち、真琴の部屋の窓を見上げると照明の明かりがないので寝ているか。

ふぅっと息を吐いて玄関を開けて靴を脱ぎ、リビングに入って電気は点けずに、大きなソファにドカっと座った。

「まいったな」

ここで原稿が無くなるのは予想もつかなかったし、6月号の時の佐藤の立場になって分かった感情もある。

こんなにも喪失感があって、何かにぶつけることも出来なくて…、田所達と違う会議室で話し合った時も3人はシンクロの記事を続けようと提言してくれたけど、遠藤選手達のインタビューを多く取っていたのもあるし、今更違う選手にするのも違うと思った。

一度ついたイメージを払拭するのって相当な時間を要するし、テレビ放送までされていたもんな。

石井選手と真琴の場合は運良く表沙汰にならず、高坂さんの協力も大きかったし、石井選手自身もその後は取材の時はキャプテンや監督と一緒に応じて、言葉も慎重に選びながら真琴の話は出さずにサッカーの事を話していると水野が言っていた。

バックからシンクロの事を書いたノートや下書きの紙束を出して、ノートから読むと1年前って専門知識が乏しかったから質問の項目が多く、季刊の時も井上監督から沢山のシンクロを話して貰った記憶が蘇る。

そこから毎月訪れて取材や見学を繰り返し、ようやくって時だったから、テレビ放送で熱愛報道を見た時は真っ先に『7月号に載らない』と浮かんだ。

大きなソファから立って、キッチンの方へ行き、キッチンエリアだけの電気を点け、冷蔵庫から水のペットボトルがあったから取り出して、蓋を開けてグビグビと飲んで、口を離してふぅっと息を吐く。

「仁さん」

顔を声がした方に向けると、ルームウェアの真琴が立っている。

「ただいま」
「おかえりなさい…」

今は喪失感の気持ちを真琴に気づかれたくなくて、ペットボトルを手にしながら真琴の横を通り過ぎると、俺の白シャツの裾をギュッと掴まれ、それ以上は踏み込まれると、真琴に酷いことをしそうで…。

「悪いけど、手を離して」
「でも…」
「真琴に酷いことをしそうだから、離して」
「嫌です!」

真琴がはっきり大声で言うと、俺の背中に頭をコツンと寄せる。

「今は…、今は仁さんの側にいちゃ駄目ですか?」

ああ、もう…、俺はペットボトルを手放して真琴の方に振り返り、ペットボトルが床にダンっと落ちて転がり、真琴の手を取ってリビングの方へ向かった。
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