スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~
荒木さんは4月号を手に取って大きいソファに座り、静かに読み始め、お互い会話もなく、テレビの電源は入ってなくて、ただページを捲る小さな音だけがしていても苦にならない雰囲気だ。

この号は野球の記事やテニスが大きく取り上げられていて、こっちの雑誌は時期的に秋だから屋外スポーツから冬に向けての屋内スポーツを取り上げていて、企画の部分は季節やそうでないものがあって、ルーズリーフにタイトルや具体的な内容を簡潔にメモをしていく。

あれ?こっちの雑誌には付箋が貼ってあるから、何でだろうと思って手に取ってパラパラと付箋の位置に向かって捲った。

「それ…」

荒木さんが何か言いかけ、捲ったページが付箋の所に行き着くと、付箋の下の部分に小さく『初掲載』と書いてあって、そのページのテーマが『“排球人”:チームを支える人たち』とあり、テーマの最後のページには荒木さんの名前が明記されていた。

「それ、俺の企画が初めて載ったページ」

荒木さんの方に顔を向けると、荒木さんは4月号を閉じて大きソファに置いて立ち上がって私の隣に座る。

「これが荒木さんが初めて書いた企画なんですね」
「そう」
「どうして裏側というか、支える人をテーマにしたんですか?」
「スポーツは選手だけじゃ成り立たないし、それを支える人がいてからこそ1つになる。だから俺は支える人の声を届けて、そのスポーツを知ってもらいたいから書いている」

荒木さんが自分のテーマの意味を教えてくれて、私は改めてページを読み始める。

“排球”、つまりはバレーボールのことで、荒木さんが取り上げてたのは用具を中心に練習環境を整える人のことで、その仕事を始めたきっかけ、床の掃除1つでも滑らないように、室内の温度を保って体調の変化がしないように、シューズのメンテナンスやボールの空気圧を調整したりと多岐にわたって書かれており、監督や選手からその人への感謝の言葉も書いてあって、なんて読み応えがあるんだろうか。

「凄い…この記事の内容、凄く良いです」

その言葉しか出てこなくて、荒木さんの文章にただ圧倒され、これを書くために沢山の取材をしたんだろうな。

「………ありがと」

私の平凡な感想に短く返事をした荒木さんはルーズリーフを手にして、内容を確認する。

「4年はB班の記事の割合が高くて、企画はサッカーが人気」
「ちょっと待って下さい!メモします」

雑誌をそっと置いて、慌ててペンと新しいルーズリーフを手にする。

「創刊の年の企画で年間1位を取ったのはテニスで、2位は卓球と聖地巡礼が同率。打ち切ったのはー…、復活したのはグルメでー…」

次々と荒木さんが“Scoperta”の掲載についての話しをするから、それを逃さないようにペンを走らせ、えーと、この企画は田所副編集長が書いて、こっちはB班の先輩でー…、すると私の頭の上にポンと手が置かれたので、そっと見上げると、荒木さんが私の方に顔を向けている。

「えっと、どうしました?」
「明後日迄に企画書を出して」
「明後日ですか?!」
「楽しみにしてる」
「わわっ」

私の頭に乗せている大きな左手でくしゃくしゃと髪を弄ると、荒木さんは立ち上がって大きなソファに置いてある4号を手に取ってリビングを出ていった。

明後日迄ってそんな急な…、早急に過去分を確認して荒木さんに見せなきゃ、う〜、ルーズリーフを見返しながらテーマを考えるけど、髪に荒木さんの手の感触が残っていて、思考が纏まんないよ。

結局この日は上手く書けず、企画書の1枚目は白紙のままだった。
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