スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~
私は夢中で読み続け、最後のページを読み終えるととても読後感がよくて、これを清書する事にとても幸せに感じ、仁さんが心を込めて書いた原稿を絶対に間違えないで打つぞ!!

1枚2枚、3枚と進めていると、机の上に苺ミルクの紙パックが置かれたので見上げると、仁さんが缶珈琲を片手に立っていて、周囲を見渡していたら私と仁さんしかいなかった。

「先輩達はいつの間にか帰っちゃったんですね」
「皆は提出するものがないし、後は俺と真琴だけ」

仁さんは椅子に座って缶珈琲を飲んでいるけど、少し疲れてそうに見える。

「仁さんは何時まで書くんですか?」
「目安で2時間だから午後10時位で、真琴はその清書が終わったら先に帰って大丈夫」
「分かりました!シェアハウスでホットミルクの準備をしておきますね」
「楽しみにしてる」

仁さんがフッと笑い、私もよーし!と気合い入れてキーボードを打ち続け、そして最後の6枚目の所を入力し終えて印刷し、印刷機の所に行って順番を確認し、仁さんに差し出した。

「前半の清書が終わりました」
「ありがと。先にシェアハウスに戻って」
「はい、シェアハウスで待ってます」

今日は久しぶりに仁さんと夜を過ごせそうと嬉しくなり、気分良く荷物を片付け会議室を出ていく。

階段を降りて1階のロビーを通ろうとしたらソファに高坂専務が座っていて、6月号の“Scoperta”を読んでいた。

「お疲れ様です」
「お疲れ。藍山駅まで送ってくよ」
「ありがとうございます」

高坂専務は“Scoperta”をソファに置いて、一緒に四つ葉のビルを出て、ふと立ち止まってビルを見上げたら仁さんがいるであろう3階の会議室だけが灯りがついていて、他の階は真っ暗だ。

「荒木のシンクロの原稿は順調?」
「前半6ページは清書が終わりました。下書きを読んでいる時、まるで短編小説を読んでいるかと思いました」
「俺もそう思う」

私達は歩き始め、その時に感じた事を高坂専務に話すと、高坂専務は嬉しそうに微笑む。

「しっかし、残って書くなんて真面目だねぇ」
「締め切りが明日ですし、時間との勝負ですもんね」
「あいつが新人の時に俺の徹夜に付き合ってくれたなぁ」
「そうなんですか?」

高坂専務が言うには、青木印刷所に提出が迫っていて四つ葉で高坂専務が1人で原稿を書いていたら、仁さんがコンビニのおにぎりとお茶をいくつか買ってきて、仁さんが校正をして清書も手伝ったそう。

「『悪いねぇ』と言ったらさ、『“Scoperta”の雑誌が読めなくなるのが嫌だから』って、塩おにぎりをバクッと食べていたのが今でも覚えてる。それがきっかけというか、俺の後任は荒木にしたいって強く思ったんだよね」

高坂専務は懐かしそうに、嬉しそうに当時の事を話してくれて、私はピタッと歩みを止めた。

仁さんは今もあの会議室で1人で原稿に向かい合っていて、私もー…、肩に掛けているバックの紐をギュッと握りって、高坂専務に顔を向ける。

「私も…私も“Scoperta”の雑誌を読めなくなるのは絶対嫌なので、コンビニに行ってきます!」
「………頼んだよ」
「はい!」

力強く返事をして高坂専務にペコっと頭を下げて、四つ葉出版社の御用達となっているコンビニに向けて走り出した。





「もしもーし、祐一?」
『どうした?家じゃないの?』
「仁の進捗が気になって残ってたけど、心配は要らなかった」
『そうなの?仁君を1人にするなんて珍しいね』
「可愛い部下が差し入れに行くって言うから、邪魔しちゃ悪いでしょ?」
『へぇ、じゃあ俺は2人が終わるのを待って、お迎えにいけば良い?』
「話が早いねぇ。可愛い部下が仁にちょっかい出されないように、しっかり見張っててよ」
『任せて。それと深夜料金は美味しいお酒で』
「喜んで。じゃあ切るね」

祐一宛の電話を終えてスマホをスーツの内側にしまい、1人寂しく藍山駅へ向かう。

俺が編集長をしていた頃より良いメンバーが揃ってきて、マジで羨ましいな。

いつも物静かで何を考えているか分かりづらいけど、本当に本を作ることに情熱を持っているし、“休刊”をきっかけに仁自身が変わっていったのが分かるし、いや、可愛い部下の宝条さんがスポーツ部を選ぶって言った時にきっと仁も変わるだろうなって、採用してほんと良かった。

この7月号が勝負で親父の考えを変えてくれることを信じているし、田所達の成長をもっと長く続けさせたい。

そう思いながら藍山駅へ入っていった。
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