スウィート(!?)シェアハウス~2人の秘密の同居生活~
side荒木仁

真琴が会議室に出ていくのを見守って、また原稿用紙に鉛筆を走らせる。

勝負の7月号だし、またこうしてシンクロに取り組むことになって、秋山が自分の時間を割いて俺に付き合って撮影を手伝ってくれて、俺の留守の間を頑張ってこなしてくれている田所達の頑張り無駄にしたくなくて、少し疲れがあるが集中して文字を綴った。

井上監督のシンクロに対する想い、選手たち1人1人がシンクロに取り組む姿勢を届けたく、取材の時間はどの言葉も取りこぼしたくなくて録音機を使い、原稿用紙の手元に置いて再生と停止を繰り返して書く。

後半のページもあと4枚…、明日の午前中に真琴に清書をお願いすればバイク便に間に合うから、今は書き上げることに集中だと文字をどんどん増やしていくと、机の上に置いたスマホが揺れ、鉛筆を置いて指でタップすると祐一さんからの電話で、耳に当てた。

「もしもし?」
『稔から宝条さんが仁君の所に差し入れを持って行くって聞いたよ。それと、2人のお迎えを頼まれたからそっちに向かっている』
「え?」
『着いたら連絡するから、一旦切るね』
「待っー…切れた…」

祐一さんからガチャ切りされ、こんな夜遅くに真琴が来るって、先にシェアハウスに帰っている筈じゃー…、すると会議室のドアがノックされ、俺は席を立ってドアの方へ行き、ドアを開けたら真琴がコンビニの袋を持って立っていた。

「先に帰ったんじゃないの?」
「私も…」
「うん」
「私も“Scoperta”を読めなくなるのは絶対嫌なので、このまま清書をやりたいです!」

真っ暗な階段や廊下を歩くだけでも怖かったと思うのに、引き返してくれたんだと思うと、嬉しくて真琴を抱き締める。

「うわっ」
「………ありがとう」
「どーいたしまして」

俺の腕の中にすっぽりと収まる真琴から笑い声が聞こえ、少し疲れていたから“充電”をして、腕の力を緩めて真琴を会議室の中に入れてドアを閉じた。

「おにぎりの味は塩とわかめにして、お茶は緑茶にしました」
「少しお腹が空いていたし、食べる」
「はい!食べましょう」

真琴と一緒に上座の席に座って、おにぎりを食べると力がついてくる。

「実は先に帰ったら高坂専務に途中迄送ってもらって、その時に仁さんが高坂専務のお手伝いをした時の話しを聞いたんです。私も仁さんと同じで、“Scoperta”が読めなくなるのは本当に嫌で、高坂専務に断りを入れて戻ってきました」

そっか、だからその後に祐一さんから連絡が来たんだ。

「祐一さんから電話があって、真琴がこっちに戻るって言うから本当に来るとは思わなかった」
「私も仁さんの力になりたいので、戻ってきました」
「ありがと。後4枚だから、少し待っていて」
「はい!」

塩おにぎりをバクッと食べ、また鉛筆を握り、原稿用紙に書いていく。

「………」

真琴は静かに終わるのを待っていて、また集中して書き続け、そして結びの文字を綴って静かに鉛筆を置いて、大きく息を吐いた。

「出来た。校正をするから待っていて」
「はい」

俺はノートパソコンに下書きの原稿の文章を入力し、校正機能を使い、漢字の訂正や誤字脱字がないかを慎重にし、気になった表現はスマホで調べて訂正して、赤ペンで指示を原稿に書いて真琴に差し出した。

「後半の清書をお願い」
「任せて下さい!」

真琴は原稿を受け取り、黙読を始め、そしてノートパソコンで清書をし始め、1枚1枚丁寧に入力を続け、そして印刷機から後半の清書が印刷されたのが出てきて、真琴が印刷機から用紙を手に取って順番を確かめて俺の所に来るけど、瞳がとても潤んでいる。

「前半もですが、本当に素晴らしくて小説を読んでいるかのように思いました」
「ありがと」
「清書を任せて下さって、あり…う…ま…」

俺は原稿を受け取り、机の上に置いて、真琴の腕を掴んでグイッと引き寄せ、俺の両太腿の上に真琴が乗ると、本人は顔を赤くさせる。

「ここ、会議室です…」
「祐一さんが来るまで」
「はい…」

真琴が腕を俺の首に回し、お互いの距離が縮まり、本当ならシェアハウスのリビングで大きなソファに座って“充電”したかったけど、待てない自分がいた。

机の上に置いたスマホが揺れたので手に取って画面をタップすると祐一さんからだったので、耳に当てる。

「原稿は終わっているから、1階に行く」
『うん。待ってる』

俺は通話を終えて真琴の頭に手をポンっと置いた。

「“一緒に帰ろう”」
「はい!」

真琴は嬉しそうに微笑み、俺の両太腿から降りて帰り支度を始め、俺も用意をして会議室の戸締まりをして、会議室を出て1階に行った。

真琴と一緒に四つ葉を出ると1台の車が停まっていて、運転席のドアが開いて祐一さんが降りてきた。

「無事に終わったみたいだね」
「終わった。迎えに来てくれて、ありがと」
「深夜料金の手当ては稔に請求しているし、安心して。何処まで送れば良い?」
「南◯駅のロータリー」
「分かった。ほら、乗って」

祐一さんが後部座席のドアを開いて、俺は真琴を先に乗せ、続いて後部座席に座ると祐一さんも運転席に回ってドアを開け、運転席に座ってエンジンがかかる。

「あの…私まで送ってもらって良かったんですか?」
「稔が『可愛い部下が仁にちょっかい出されないように、しっかり見張っててよ』って頼まれているから、しっかりと見張るね」

祐一さんは楽しそうに話し、車を発進させるけど、稔の奴…、真琴にちらっと視線を向けると、自分の前髪の隙間からは真琴が何とも言えない様な表情でいた。

車はどんどん暗闇の中を走行し、真琴は車窓からの景色をじっと眺めていて、俺も左側の車窓からの景色を眺める。

車の中はラジオも音楽も流れず、ただ車の走行音だけがしー…、白シャツの裾が握られた感触があって、視線をそこに向けたら、真琴の左手が俺の白シャツをギュッと握っていた。

「………」

真琴は黙っていて、さてどうしたものか…、祐一さんは運転しているからこっちの状態に気づいてないだろうし、車が信号の赤で止まると、俺もそっと真琴の左手に自分の右手を重ねると真琴の左手がビクッとした。

そっちから握ってきたのに…、その反応に口元が緩み、真琴に気づかれないように顔の向きをずっと左側に向ける。

車が再び走り出し、祐一さんの運転は心地よく、無駄なブレーキもないな…まずい…、運転の心地よさに何度も瞼が重くなー…視界が一気に暗くなった。
< 461 / 488 >

この作品をシェア

pagetop