夫婦ですが何か?Ⅱ
徐々に戻り始める日常の空気に安堵を感じ、次の瞬間には軽く噴き出して隣の男の集中を集めてしまった。
何が可笑しかったのか視線を走らせてきた彼に何でもないと手を添えて、感じてしまった内容は密に胸に仕舞い込む。
厄介でストレスの塊であった近所関係やその住人。
だけどもその厄介さでさえ日常だと自分の中で順応してきていた物だと今理解したのだ。
結局・・・やはり私は図太いのだと思うとようやく心に強気が浮上し始めて。
そんなタイミングを図ってなのか、不意に表情を読んだらしい男が躊躇いながらも言葉を口にする。
「・・・すみません。・・・あの、だいぶ回復されたとはいえ、まださして時間が経過していないのでこんな事を確認するのは心苦しいんですが・・・」
「・・・・はい、」
「でも・・・まだ鮮明な内に思い出せる事を確認しておいた方が後々予防もし易いと思うんです」
申し訳なさそうに弾かれた言葉の意図は分かった。
確かに彼の言う事も一理あって、人というのは時間が立てば記憶の薄れていくものだから。
辛い現状だろうと鮮明な内に記録した方がいいのだろう。
それを自分でも理解し納得するとゆっくりと息を吐いて気持ちを落ち着ける。
そして回想するように目蓋を下して、未だに震えがきそうなつい何分か前の恐怖を反芻する。
「・・・・・背後から・・・、首に腕を巻きつけられたんです」
「・・・はい、」
「で、・・・混乱してパニックになって、自分でまともに立てないまま後退させられて・・・、あの路地に・・・引きずり込まれたんです・・・」
私が記憶を辿って順に弾いて苦言葉に、無言で頷くだけで声を挟まない男。
多分どんな小さな声だろうと今の私の妨げになるとあえて無言での意思表示。
でもそれは正解。
途中でこの集中が途切れたら、きっと再度の集中は出来なかったから。
静かな夜の空気を感じながら恐怖の時間の回想。
思い出せばまた足がすくみそうな。
「・・・・無駄に・・・色々な物を目に映して・・・、夜空とか、民家の塀だとか・・・、でも・・・何かで・・・顔を隠していたと思います」
「・・・何か?」
「すみません・・・本当にあの時は混乱していたもので・・・、顔が見えなかったという事は記憶しているんですが・・・・、フードのような物なのか・・・帽子だったのか」
こうして落ち着いた瞬間に思い出そうとしても明確でないのだ。
街灯がほとんどなく暗かったせいもあったけれど、相手がどんな格好だったかもまともに覚えていない。