夫婦ですが何か?Ⅱ
気がつけば名前も住んでる階も知らないあの人。
ただ当たり障りなく社会的マナー携えた人だという印象だけで。
こうして母子だけの外出に父親は留守番なのかと余計なお世話的思考を一瞬巡らせてしまった。
でも自分もそんな人の事にかまっている余裕はなかったのだと意識を待ち人の到来に集中させていく。
そうして数分も経っていないというタイミングに再度後ろのガラス戸が開いて、今日は出入りが激しいな。という感覚で振り返ればその姿に目を瞬かせた。
よろりとふらつきながら登場した姿は全力疾走でもした後なのか。
呼吸も早く、顔も苦悶の表情で、でも何かを探すように視線を走らせ私を捉えると一瞬驚愕しすぐに力なく笑って見せた。
私はそれにどう返せば正解なのか。
「あの・・・」
「今・・・ここを・・・」
「えっと・・・奥様とお子さんですよね?・・・ついさっき、」
通り過ぎてすでに去った。と歩き去った方を指さし控えめに言葉を返せば、困ったような苦笑いで頭を掻いたその人が脱力したようにその場に座り込む。
さすがに不安になって階段を駆け上ると乱れた呼吸を整えながら乾いた笑いを零すその人の落胆した姿。
「あの・・・大丈夫ですか?」
「・・・ええ、・・・お見苦しいところを・・・」
「・・・・・立てますか?」
言いながら手を差し伸べると『すみません』と言いながら私の腕を掴んでゆっくりと立ち上がった姿。
でもすぐにふらりとバランスを崩した体を咄嗟に支える。
「ああ、すみません。・・・歳ですね、5階からエレベーターに乗った2人を追いかけて走ったらこの様です」
「貧血ですね・・・、」
どうも一人ではままならなそうな立ち姿に、一瞬視線を道に走らせて。
それでも未だ現れそうにない姿に意識を切り換える。
とりあえずこの人を部屋まで送り届けて携帯で彼と連絡を取ろう。
もしかしたら何か渋滞にハマっているのかもしれない。
そうだとしたら色々と待つ場所も変えねばいけないのだ。
「あの、部屋まで送りますから」
「そんな・・・申し訳ないですよ、」
「でも途中で転倒されたら危ないですから」
「・・・・なんか、すみません」
心底気まずそうな苦笑いを浮かべる人に『気にするな』と言うように支えながら歩きだして、エレベーターホールに再び戻ると△を押す。