夫婦ですが何か?Ⅱ
さっきこの人の奥さんが乗ってきた時のまま1階で留まっていたそれはすぐに扉を開いて乗車を促して。
ゆっくり2人で乗り込むとさっきの会話から理解した5階のフロアの数字を点灯。
浮上する感覚に身を任せ時々同乗している人を振り返る。
呼吸はだいぶ整ってきている様に感じ、それでもやはり落ち込んで見える姿から奥さんと喧嘩でもしたのだろうか?と下世話な想像をしてしまう。
でもそんな意識を掻き消すように到着音が響き、静かに開いた扉から未体験のフロアに踏み込んだ。
今日は自分のフロアでない床をよく踏む日だとどこかで皮肉って、彼が指示した方向にゆっくり向かって様子を伺う。
同じマンションでもフロアによって雰囲気も違うものだと今更確認して、もの珍しい視線を走らせ最後に足を止めた扉を見つめた。
どうやら慌てて飛び出したらしく鍵をかけていなかったらしい。
その事にも苦笑いを浮かべながら扉を開き中に入りこむ姿。
だいぶ足取りは定まってきているけれどもまだおぼつかないそれに、失礼かと思えど玄関内までその身を支えた。
そうして室内を確認してもやはり玄関一つにして造りが違うものだと、確認するように視線だけ走らせていれば。
「ハハッ・・・造りが違うでしょう?・・・あなたの住んでる階には安月給じゃ手が出せなくて、エレベーターホールの廊下から高級感ありますからね」
「いえ、そんな失礼な事、」
「羨ましいですよ。若くても収入豊かなご主人で、」
決して嫌味な感じではなくほんの冗談のように苦笑いで弾かれた言葉。
そしてすぐに壁に背をつけ脱力したように座りこんだ姿に焦って支えるように腕とと肩を掴んで支えた。
再びの貧血か苦悶の表情を浮かべた彼がもう大丈夫だとそっと私の手を外し、申し訳なさそうな表情で覗き込み玄関からリビングに繋がる廊下を指さしてくる。
「すみません・・・もうかなりご迷惑おかけしているんですが・・・水を持ってきていただけませんか?」
「水ですか?・・・では、失礼ながらお邪魔させていただきますね」
家主の許可を一応得て、頷くのを確認してからリビングと併設するキッチンに向かう。
やはり各家庭で独特の空気がある物だと感じながら奥に進み、リビングの扉をくぐると広がった部屋の感じにどこか好感を得る。
家族の部屋だ。
綺麗なリビングに子供のおもちゃが点々としていて、写真も旅行に行った物であったり、子供が描いたであろう絵が飾ってあったり。
一瞬そんな空気に口の端を上げ、すぐに目的であるキッチンに入り込む。