夫婦ですが何か?Ⅱ




「・・・・歩いて・・・大丈夫なんですか?」


「ええ、おかげさまで。・・・なかなか戻られないのでグラスの位置が分からなかったかと」


「すみません。・・・でも、回復されたのでしたら何よりです。まだ気がかりではありますが生憎私も所用がありまして、これで失礼させていただきますね」



にっこりを口の端を上げて、気にかかるけれども失礼すると丁重に言葉にしてその身を動かす。


酷く緊張する一瞬。


力ない笑みで立つ男の横をすり抜けて歩く瞬間。


何も気がついていないふりでこのまま退出を見逃してほしい。


だからこそ特別焦る様子でもなく歩きぬけてすれ違いざまに会釈もし背中を向けた。



「・・・リビング・・・どう思いますか?」


「・・・・・はい?」



不意に問われた質問に怪訝な表情を掻き消して振り返れば、その視線は私ではなくリビングに向けられている。


予想に反した問いや行動に困惑しつつ、早くこの場を去らなければという気持ちも強くある。


でも問いに対して無言を返せば不審に思われるだろう。



「・・・・とても・・・いいご家族みたいですね」


「ええ、まぁ、ありきたりの家庭なんですけどね」



そう言って感傷に浸るようにリビングを見つめる姿。


それを放置して玄関に向かってもいいだろうか?


戸惑いながらも彼の視線がこちらに無いのをいい事にじわりじわりと玄関に体を動かしていく。


扉まではそう距離はない。


今すぐにでも走って逃げたいくらいの距離なのだ。



「あの・・・私・・もう用事がーー」


「良い奥さんで、子供も可愛いんですよ・・・」


「・・・・はい、お見かけしましたが・・・とても、」


「でも・・・今はいないんですよ。・・・ここに、」



スッとこちらに移った視線。


さっきと同じ笑みなのにまるで違ってどこか危険な。


危うい、一瞬で獣に切り替わりそうなそれに瞬時に鳥肌立つ体は正直だ。



「・・・・・あなたのせいです」


「・・・・・・何・・?」


「あなたが・・・悪いんです・・・」



困ったように眉尻下げて微笑み、ゆっくりと身をこちらに向けると歩みよる姿にうっかり身を引いた。


保っていた一線を踏み切ってしまった事に心臓が強く跳ね、それを悟っているような相手がにっこりと微笑む。


私を責めるような言葉に思い当る節はないのに。


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