夫婦ですが何か?Ⅱ
私のせい?
何がどういう意味で?
そんな発せられた言葉に困惑しつつも体はじわじわと後退してしまう。
「・・・・ずっと・・・いけないと思ってたんだ・・・」
「・・っ・・・何が・・・で、しょうか・・・」
急に自分に苦悩するような表情と響きで語りだした男に一瞬ビクリと反応し次の動きに警戒してしまう。
さっきから意味不明な言葉ばかりでまったく彼の言わんとしている事が繋がらない。
目的も分からず何をどうしたいのか。
責めたいのか懺悔したいのか。
困惑のまま情緒不安定にも感じるその人を見つめて一歩身を引けば、顔を覆っていた手を外しスッとこちらに戻った視線に心臓が強く跳ねた。
「こんな良い家族があるのに・・・・あなたに惹かれる自分はいけない人間なんだと思ってました・・・・」
「っ・・・」
「でも・・・偶然見かける時に僅かばかりに心疼くぐらいなら男として正常かと思って。・・・・でもその偶然が密かに増えることをどこかで願ってしまっていて・・・・」
「・・・あのっ・・」
「気がついたら・・・・あなたの姿ばっかり追ってた・・・」
まるで、
純粋な少年の告白の如くその表情に憂いを浮かべて私に感情をぶつけてくる相手に困惑する。
途中から自分を正当化するような言動に切り替わったりする部分で充分この人の感覚は異常だと感じる。
そしてそれが正常である事の同意を求める様な眼差しが心底恐い。
いつか・・・似たような目を見た事がある。
あれは彼の妹達の舞台を手伝った時だ。
異常なファンの男の眼差し。
理解を超えた恍惚とした感覚に自分の価値観が通じない人間なんだと畏怖した記憶。
あれだ・・・。
だから分かる。
この人は・・・・危険だ。
刺激しようものなら一気に攻め込まれるような。
「でも・・・俺はそんな最低な人間じゃないんです。妻を愛してて、子供も愛してて・・・・ここにあるすべてが大切で・・・」
「・・・・っ・・よく・・・分かりますよ」
「そうでしょう?良い家族なんです」
彼の言葉に同調するように数回頷く。
決して否定してはダメだ。
そう自分に言い聞かせ彼の意識がどこかお留守な内にまた一歩玄関に身を引き距離を詰める。
早く、すぐに扉をくぐれる位置まで。