夫婦ですが何か?Ⅱ
『ーーーー長・・・』
ん・・・。
『副ーーーうーーー』
あれ?
『副社長・・・・』
俺・・・副社長だっけ?
「・・・失礼します、」
そっと額に触れてきた指先にさっきもそうされたのに、とデジャブの様な感覚。
呼ばれた響きと触れてきた感覚に目蓋を開けていけばさっきと同様に覗き込む姿に安堵し、でもすぐに疑問。
「・・・」
「熱がありますね、」
「・・・千麻ちゃん、」
「どうしますか?私の見解では仕事の続行は不可能かと、」
「千麻ちゃん・・・・」
「・・・副社長?」
うん、その響きもさ、
懐かしいけど・・・・。
「髪・・・・短い。眼鏡だし・・・」
「・・・・・はい、いつもと何ら変わりはありませんが?」
「・・・・・今・・・・いつ?」
「本当に大丈夫ですか?言動がとてもまともに感じられませんが」
俺の言葉に怪訝な表情を返す彼女は俺の記憶する現在の姿じゃない。
ショートヘアに洒落っ気のない眼鏡、その細身の体にパンツスーツ纏って。
ああ、懐かしくもある秘書な彼女の姿。
気がつけば自分もスーツ姿で、その身もオフィスの自分のデスクに置いていて。
変わらない点を述べれば・・・倦怠感。
よく分からないけれど今この俺も高熱に苛まれ彼女にその身を案じられているという事。
それでも濁って歪む視界は幻影の様で、なのにどこか記憶している時間。
過去にこんな事があって・・・・。
確か・・・残業していた時だ・・・。
そう記憶の端を掴めばパッと切り替わる景色。
今までどこか白い印象の強かったオフィスが一気に夕刻の雰囲気に場面を変えて。
その瞬間に薄ら気がつくのはこれが記憶に基づいての夢であるという事。
だから過去にはしていないはずの会話も成り立って、でも記憶にある場面の再現だから臨場感もある。
つまり目の前のこの千麻ちゃんと俺はまだ副社長と秘書であって・・・・・・ただ、それだけ。
この彼女は俺に・・・なんの感情も抱いていないのか。
「副社長・・・、車を用意しますので今日は帰宅された方が、」
「・・・・・・ねぇ、・・・千麻ちゃん・・・」
「水城です。熱があってもセクハラ健在ですか?」
切り返された言葉に力なく笑って頭を抱えた。
過去の彼女が言いそうな切り返しだと可笑しくて、そんな彼女を瞬時に作り上げる自分の脳内に驚いた。
どんなに今の彼女の印象が強く根付いても、過去の彼女も忘れることなくしっかりと記憶しているのだと再認してしまった。