「恋って、認めて。先生」
翌日の夜、私の自宅アパートに来てくれたいつものメンツで夕食を囲んでいると、
「なんでそんな話になってんだ!純菜も純菜だ、なんで止めなかったよ!?」
琉生がなげくように叫んだ。純菜と私が合コンに参加するという話をしたからである。
「比奈守君という従順彼氏がありながら……!」
琉生の中で比奈守君のイメージがどうなっているのか分からないけど彼に従順属性はほとんどないと思う。そうツッコミたいのを抑え、私は苦笑した。
「私もあんまり気が乗らないんだよ。かといって、代わりに行ってくれる子探せるほど人脈ないし……」
「飛星も最初は断ってたんだけど、それでもダメなくらい、エモちゃん、強引だったみたい。職場の先輩に恋愛の協力頼まれたら、私でも断れないよ〜。仕事中は先輩に色々助けてもらってるわけだしさ、女同士、持ちつ持たれつなんだよ」
純菜はいつものようにやんわりとした口調で助け船を出してくれる。エモと面識がないのに合コンに参加してくれる、それだけでありがたいのにフォローまで…!純菜、ありがとう!
純菜に感謝の視線を向けウンウンと激しくうなずいている私を見て、琉生はおおげさなくらいわざとらしいため息をつき、そんなの知るか!と、語気を強めた。
「ただでさえ比奈守君は永田先生とか田宮って生徒のことで気をもんでるのに、それ以上不安にさせる要素作るなんて……!飛星って、優しそうな顔して案外ドSなんだな」
「そこまで言う!?ほんと、しょうがなかったんだよォ」
私にはSっ気なんてない。むしろ比奈守君の方がその気は強いと思うんだけど。
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
純菜が止めに入り、私に言った。
「比奈守君には正直に話せばいいと思うよ。やましくないんだし、意気込んで浮気しに行くつもりでもないんだし、今回は友達の頼み事だから仕方ないよ。ね?」
「そうだよね!言わない限り比奈守君に知られることはないと思うけど、第三者の口から伝わる前にちゃんと話しておくよ。変な誤解させたくないから」
付き合ってまだそんなに長いわけじゃないけど、短すぎるという事もない。比奈守君はきっと分かってくれる。
「どうなっても知らないぜ?おれっちは行くのやめといた方がいいと思うけど……」
琉生が珍しく難しい顔をしているのが気になり、私は尋ねた。
「どうして?比奈守君はそんなに頑固じゃないと思うけど……」
「頑固とかそういう問題じゃなくてさ。昨日も言ったけど、飛星が思う以上に、比奈守君は自分が年下ってこと気にしてるし、男って嫉妬深い生き物なの。彼のこと大人っぽいって飛星は言うし、おれっちも最初の頃はそう思ってたけど、頑張って背伸びしてるだけかもしれないぜ?飛星に男として見てもらえるように、さ」
「そんな……。そうなのかな」
琉生は、男の本質を見極める目があるとよく豪語しているけど、確かにその通りだ。昔、私がヨシと付き合っていた頃も彼のことを「博愛主義で自分の本能に素直なやつ」とジャッジし、実際それは当たった。
そんな琉生の忠告をスルーするのは、占いで最悪の運勢を予言された時なみに後味が悪い。