「恋って、認めて。先生」

「おれっちも、飛星が浮気するとは思ってないし、こんなことクドクド言いたくないけどさぁ……。なんかなー、胸がざわざわするんだよ」
「心配してくれるのは本当に嬉しいよ。でも、エモとは約束しちゃったし、今さら断れないよ」

 エモのことをないがしろにはできないけど、比奈守君と変な風にもなりたくない。

 空になったグラスを意味もなく手のひらでもてあそぶ私を見て、琉生はハッとしたようにこう言った。

「比奈守君が飛星との付き合いで不安になる理由、やっと分かった……!」
「な、何!?」

 琉生は私の眼前でビシッと指をさした。

「その、フワフワしたところだ!」
「フワフワ!?私が!?」
「お前以外に誰がいる!……長年そばに居過ぎて、全く気付かなかったぜ」

 両手で頭を抱え、琉生は言葉を継いだ。

「強く迫られたら断れないその性格!そうだった。昔から飛星はそういうやつだった……!」
「そうかな!?そんなことないと思うけど。永田先生の告白だってきっぱり断ったし、比奈守君が好きって言ってくれた時も、最初はきちんと突き放したし」
「そうかもしれないけど、そうじゃなくて……。なんていうの、こう、隙があると言うか、彼氏がいるのに他の男にも優しくするし、頑張って押したらなびいてくれそうって思わせる空気が漂ってるんだよ、飛星には。合コン参加することになったのも、そういうとこに付け込まれたからだよ、間違いない!」
「私はエモに付け込まれたのか……。ううむ」

 だけどなんか納得したくない。うなる私に、昔からのエピソードを交え、琉生は事細かに説明した。

「小学生の時からそうだ!お前プリン大好物だったクセに好きな男に給食のプリン欲しいって頼まれたらニコニコしてあげてたし、ヨシと付き合ったのだって、アイツがしつこく飯に誘ってきたからだろ?前に永田先生と食事に行くことになったのだって、永田先生の口車に乗せられてって感じだったじゃん。で、まんまと告白されてさ」
「まんまとって……」

 たしかに、その通りだけど。幼なじみ視点の指摘に、私はだんだん小さくなってしまう。

「自己主張しないから何考えてるのか分からない。フワフワしてて隙がある。他者の言葉に影響されやすい。そういう女は男にモテるからな。しかも、比奈守君と飛星の付き合いは誰にも秘密。いざ男が近寄ってきても、比奈守君は飛星のこと堂々とさらえないわけだ。それがよけい、比奈守君の不安に拍車かけてるんじゃないか?」
「そんな……」

 モテる自覚はないけど、そんな風に言われたら、合コンなんて行かない方がいいのかもと思ってしまう。……はっ!こういうところがダメなんだろうか。すぐ、人の言葉に流されてしまう。

「エモには申し訳ないけど、やっぱり断ろうかな……」

 スマホでエモに連絡しようとしたその時、まさに彼女からラインのメッセージが入ってきた。

《昨日は本当にありがとう!急な誘いだったし、飛星や友達にも都合があるのに……。お詫びにご飯食べに行かない?純菜ちゃんだっけ?その子も連れておいでよ。一緒にまとめておごるから♪》
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