「恋って、認めて。先生」

 視線。それは特に女子生徒からのものだった。意外なものを見るような目だったり、中には敵意と受け取れるような鋭い眼差しもあった。

 あまり考えたくないし気のせいだと思いたいけど、明らかに睨まれていると思うこともしょっちゅうある。

 初日の頃に比べて夏期講習の参加者が増えたのはいいことだけど、最近になって参加し出した彼女達は勉強になど興味がないように見えた。

 なぜなら、わざとやっているのかと思うほど大きな声でしゃべってばかりいるからだ。それも、小テストなどの時間に。

 最初の頃は見逃していたけど、さすがに何度もそういうことがあると他の生徒達の迷惑になる。そう思い、私は思い切って注意した。

「今はテスト中ですから、静かにして下さいね」

 注意の甲斐あってか、教室は再び静かになったけど、おしゃべりに夢中だった女子生徒数人の中の誰かがポツリとこんなことを言った。

「ってか、お前が言うなし」

 え……?

 なぜそんな態度を取られるのか、わからなかった。注意されたのが気に入らなかった?ううん、言い方には問題なかったはず……。

 最近妙に気になる彼女達の視線のこともあり、悪い風に受け止めてしまいそうになるのを必死に抑える。

 私、彼女達に何かしたんだろうか……?

 夏期講習中、室内は特別にエアコンがついているので涼しい。それなのに、嫌な予感でモヤモヤした私は、背中の汗がなかなか止まらなかった。


 あれ以来、比奈守君のそばに河田さんが現れることはなかった。でも、相変わらず夏期講習には顔を出すのに私とは関わる気がなさそうな比奈守君についても、私は悩んでいた。

 距離を置くというのは、別れの第一歩のように思えてならない。

 私自身、河田さんと比奈守君の関係を知って以来、まっすぐな気持ちで比奈守君のことを見れなくなっていた。

 実家のお父さんやお母さんからは毎日のように電話がかかってくるけど、何を言われるかだいたい分かっているので、無視して出ないようにしていた。


 そんな調子で夏期講習が終わった頃、私は精神的にものすごく疲れていた。あの女子生徒達の態度は冷たく反抗的なままだし、比奈守君との先も分からない。

 そもそも、比奈守君は私のことをどう思ってるんだろうか?

 距離置きたいって言っておいて夏期講習に来るって何?そのくせ連絡はしてくれそうにないし、河田さんとの会話を聞いてしまった私はどうしたらいいの?
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