魔恋奇譚~憧れカレと一緒に王国を救うため、魔法使いになりました
 勇飛くんに促され、私はもう一度マスター・クマゴンを見た。潤んだ赤い目をしたマスターがうなずく。

「行ってきます」

 私たちは声を揃えて言って、ソードマン・ハウスに別れを告げた。


 暗いうちにできるだけ進もうと、私も勇飛くんも無言で街道を歩いていた。夜が明けきる前の時間は、盗賊や魔物もまだ活動を始めていない。

「セリ、疲れてない? 大丈夫?」

 ほんの一日前まで毒に冒されていた私を気遣うように、ときどき勇飛くんが声をかけてくれる。私ももう強がりは言わず、つらいときはそう伝えようと決めていた。だって、その方が本当に彼と心が通じ合っている気がするもの。

「大丈夫だけど、少し水を飲んでもいい?」
「ああ」

 私たちは道端の石に腰を下ろして、水を入れた皮袋から一口ずつ飲んだ。カルサイト村かその前の村の井戸で水を補給するまで、大切に飲まなくちゃいけない。

 やがて東の空がうっすらと白んで、日が昇り始めた。干し草を積んだ馬車や枯れ木を背負った人の姿が見られるようになり、すれ違う人の話し声がときどき聞こえる。

「この重税はいつまで続くんだろうね」
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