魔恋奇譚~憧れカレと一緒に王国を救うため、魔法使いになりました
 私のかすれ声に、マスター・クマゴンではなくただのクマゴンがうなずく。

「そうだよ。心配したんだぞ」

 私がもう一度起き上がろうとすると、熊田先生が腰を上げた。

「ああ、待て。一週間も点滴だけで過ごしたんだから、いきなりは起きられないぞ」

 言われてふと見ると、点滴スタンドにつるされた点滴のパックから細長いチューブが伸びて、右腕に止められた白いテープの下の針まで続いている。

「見舞いに来たんだけどな、お母さんがつきっきりでお疲れみたいだったから、食事でもどうぞって付き添いを替わったところだったんだよ。今、担当の先生とお母さんを呼んでやるからな」

 熊田先生が枕元のナースコールを押した。付き添いを替わったと言いつつ、さっきまで居眠りしてたくせに、という反抗的な言葉は心の中にとどめておく。

 それにしても、一週間も寝てたなんて……。試験期間中の徹夜の疲れが出たのかなぁ……。

 なんだかすごく長い夢を見ていた気がする。

 私は深く長く息を吐きだし、天井を見た。

 夢の中で勇飛くんと私は冒険をしてたんだ。勇飛くんが剣士で私が魔法使い。“セリ”って呼んでくれて、ほっぺにキスもしてくれた。
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