魔恋奇譚~憧れカレと一緒に王国を救うため、魔法使いになりました
 同じ階のほかの病室のネームプレートを見てみたけれど、勇飛くんの名前はない。熊田先生はそろそろ帰るところじゃないかって言ってたから、もう退院して帰っちゃったのかもしれないな。

 会いたかったなー。電車の中で何があったのか訊いてみたかったのに。

 残念に思いながらも、少し外の様子が見てみたくて、廊下の突き当たりにあるバルコニーに向かう。ガラス戸を開けて外に出ると、ここは三階のようで、見下ろした中庭には常緑樹が何本か植えられていて、柔らかい日差しの中、パジャマの上からコートを羽織った男性入院患者が一人、ベンチでひなたぼっこをしているのが見える。

「大滝さん、寒くないですか」

 看護師さんが近寄ってきて声をかけると、男性はゆっくりと立ち上がって、看護師さんと一緒に病院の建物の中に消えた。

 私はひんやりとした冬の空気を胸一杯吸い込んだ。

「はぁ、生き返るぅ」

 そう独りごちたとき、後ろから声がした。

「それはよかった」

 この声は……。
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