魔恋奇譚~憧れカレと一緒に王国を救うため、魔法使いになりました
 俺は急いで改札を抜け、階段を駆け上がった。そうして開いているドアから車内へ飛び込む。どこに座ろうかとガラガラの車内を見回したとき、すぐ近くの隅の席に津久野さんが座っているのを見つけた。膝の上に鞄を置き、俺と同じ白のスマートフォンを持っている。偶然だけど同じ機種だってこと、彼女は気づいているんだろうか。

 津久野さんがふと顔を上げて俺に気づき、驚きとはにかみの混じった表情をする。

「津久野さん、お疲れ」
「ひ、柊くんも」

 思い切って彼女の隣に座ろうかと思ったけど、どうやらスマホでアプリでもやっているようだ。俺は津久野さんがよく見える斜め前の座席に腰を下ろした。

 そうしてさりげなく鞄からスマホを取り出し、彼女に向ける。発車ベルが鳴り響くと同時に、撮影ボタンにタッチ。

 隠し撮りとは我ながらヤラシイ、いやセコイことをしたとは思うけど、どうしても彼女の写真がほしかったんだ。
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