in theクローゼット
そのまま腕を引かれ、私が連れてこられたのはひと気のない女子トイレだった。
理科室や美術室とかのある、移動教室の際しか使われない棟のトイレ。
始業時間もまだの時間帯では、廊下にさえ誰もない。
これから自分の身に何が起きるのか。
それを予測するには十分なシチュエーションだった。
「ねえ、アンタ。透のこと振ったって、ホント?」
腕を組んで仁王立ち。さっきと同じポーズで問いかけてくる。
この先輩たち……学内にあると噂される青山透ファンクラブの会長か何かだろうか。
「聞いてんの? 答えなさいよ!」
肩を強く押され、手洗い場の乾いた床からタイルの床に押し出される。
よろめきながらもトイレの床に倒れることだけはなんとか回避して、体勢を立て直すと先輩たちも手洗い場から中に入ってくる。
そして、後ろ手にトイレと手洗い場を仕切る扉が閉められ、内側から鍵がかけられた。
三人は通せん坊をするように並び、扉まで容易には辿りつけそうにない。
吐く息が白くなりそうなほどの気温なのに、手のひらに汗をかいている。