コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~


 俺、横内航には、彼女がいる。

 彼女といってしまうのにはまだまだ強烈な恥かしさが伴うけれど、間違いなく、同じクラスの女子、佐伯七海とは付き合っている。

 去年の秋の初めに廊下でぶつかってから、あれよあれよとあの子の存在は俺の中で大きくなっていって、それまで一度も話したことのない者同士がどうやら両思いだったと判り、色々遠回りをしながらもようやく付き合えるところまで辿り着いたのだ。

 彼女は静かで無口で照れ屋、本人曰く妄想屋。そして美術部に属する文科系女子だ。

 自分ではスポーツをしないし、年間であまり父親と一緒にいないためかテレビでのスポーツ観戦も興味がないらしい。だから幼少児から今までスポーツばかりだった俺とは、スポーツの話題で盛り上がることもない。

 一緒に話す話題は、学校のこと、俺も好きな空のこと、彼女の大好きな夕日のこと、そんな感じだ。

 だから去年の12月に付き合うって話になってからも、俺が属するテニス部の試合や練習を見に来ないかと誘ったことなどなかったのだ。

 暇だろうな、多分、と思ったし、そもそも興味がなさそうだったし、俺も女子に見られることに慣れていない。

 中学時代までやっていた水泳では競技中は水の中にいたせいで、観客のことなど気にしたことはなかったけれど、陸でやるテニスでは、残念なことに観客が大いに視界に入ってしまうのだ。

 もし、そこにあの子がいたら────────────・・・・・うわ、俺、そんなの無理かも。


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