コントラスト~「て・そ・ら」横内航編~
まだまだまだまだ恥かしいレベルだ。
ずっとやっていて国体までいった水泳と違って、高校に入ってから始めたテニスはさほどうまくない。勿論ミスもするだろうし、負けることだって普通にある。それをあの子に見られるかと思うと、それだけで毛布を頭から被ってわあああああ!って叫びたくなってしまうのだ。壁のように聳え立つ勝負欲が。普通でも負けるのは嫌なのに、それをあの子の前でだなんて!!
・・・ああ、ダメだ恥かしい。
選手たるもの観客など気にしていないで試合に集中すべきだ!それは痛いほど判っている。女子を気にしてる場合かよって自分で張り手したくなるくらいに判っている。だけどきっと、実際にあの子が見に来てくれたら・・・・俺、絶対気にすると思う。
というわけで、呼んだことがなかった。
だけど、何とこの試合の話を一緒だった帰り道に何かのついでで話したところ、あの子の方から言葉が来たのだ。
『・・・あの、それ、観にいってもいいのかな?』
って。
俺は揺れる電車の中で口をぽかーんと開けたバカ面をしていたけれども、5秒くらい経ってやっと反応が出来た。それくらい驚いたってことだよ。
『え?試合?』
彼女は慌てたように、急に顔の前でぶんぶんと両手を振って言った。
『あっ・・・ええと、ううん、いいの!あの。邪魔だよね、ごめんね。でも学校でやるならもしかしてもしかすると生徒も見れるのかな、って・・・』
凄い勢いで、彼女の首筋から顔にかけて赤い色がのぼっていくのが見えた。俺はここでようやくちゃんと覚醒した。あ、答えなきゃって。この子が凄く困っている、って。