睡恋─彩國演武─
*
「もう行かれるの?」
「はい。十分休めたし、先を急ぎますから。お茶、ありがとうございました」
見送る女主人に手を振る。
あの少年の言葉が気にかかって、いてもたっても居られなかった。
「光が消えてしまう……」
あれは、何を意味するのか。
沸き立つ不安に、胸を痛めた。
「千霧様、あれを──」
突然、先を歩く呉羽が立ち止まって、前方を指差した。
その先へ、千霧も視線を傾ける。
「なに……あれは……」
白樹の街は、灰色に見えた。
街の外観は、人が住める場所には見えない。
空から灰でも降ったような、そんな光景が広がっていた。
「酷い──…」
陽の国に、こんな街がなあったんて。
これが何かの間違いなどではないということを、目前の景色は物語っていた。