睡恋─彩國演武─





「もう行かれるの?」


「はい。十分休めたし、先を急ぎますから。お茶、ありがとうございました」


見送る女主人に手を振る。

あの少年の言葉が気にかかって、いてもたっても居られなかった。


「光が消えてしまう……」


あれは、何を意味するのか。

沸き立つ不安に、胸を痛めた。


「千霧様、あれを──」


突然、先を歩く呉羽が立ち止まって、前方を指差した。

その先へ、千霧も視線を傾ける。


「なに……あれは……」


白樹の街は、灰色に見えた。

街の外観は、人が住める場所には見えない。

空から灰でも降ったような、そんな光景が広がっていた。


「酷い──…」


陽の国に、こんな街がなあったんて。

これが何かの間違いなどではないということを、目前の景色は物語っていた。




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